菅生学園初等学校
学習のための文房具としてiPadを使いこなす菅生のICT
小・中・高12年間の一貫教育の実現に向けて様々な教育改革が進められている菅生学園初等学校。世界標準を目指す英語教育やプログラミングをはじめとするICTを活用した授業など新しい取り組みにも注目が集まっています。今回は同校のデジタル化を推進する広報室の下野先生(情報担当)、小松先生(広報室長)を訪ね、菅生のICTの実際について取材しました。
菅生学園初等学校 教諭 下野祐輔先生のお話
- 菅生のICTのゴールは「自らをコントロールする力を身につけること」
- スキルやモラルの向上に応じて自由度が上がるレベルアップ型のルール
- 新設された「医学・難関大コース」にも通じるICTの基本的なスキル
学習の場面で活用が進むICTの実際
iPadを使った授業や活動の実際について児童2人にインタビュー
- KOMA KOMAを使ってアニメーションを作ったRくん
- iMovieで学校の先生の紹介動画を編集したNくん
菅生学園初等学校 教諭 小松佑将先生のお話
小松佑将先生
下野祐輔先生
菅生学園初等学校 教諭 下野祐輔先生のお話
菅生のICTのゴールは「自らをコントロールする力を身につけること」
下野先生:
菅生のICTは、昨年2020年度の4月に全学年で1人1台のiPadが配布され大きく進展しました。以前からタブレットを使った授業は行なっていましたが、学校の管理下で使うことを前提としていたので、今回のセルラーモデルへの変更によって自宅にも持ち帰れるようになり、どこにいても学校と同じように扱えるようになりました。
それはつまり子どもにスマホを持たせているのと同じようなことで、基本的な使い方やモラル的な部分について、学校だけではなく保護者の方にもご家庭で見守っていただく“共育”が大切ですとお伝えしているところです。
学校でICTを導入するにあたってもっとも大変なことのひとつに生活指導が挙げられます。子どもたちにとってはじめて端末を持ち、できることが増えるようになると、最初に出てくる問題というのがやはりLINEやSNSの問題なんですね。
ただ手渡すだけでは単なる遊び道具にもなってしまいますし、そうした課題を他校の例でもよく聞いたので、低学年のうちから基本的な使い方やモラル的な部分についても身につけさせてあげたいと考えています。
そこで菅生のICTのゴールに掲げたのは「自らをコントロールする力を身につけること」。iPadは学習のために使う文房具なんだという意識と上手な付き合い方を身につけることを目標にしています。
スキルやモラルの向上に応じて自由度が上がるレベルアップ型のルール
具体的な方法としては埼玉県の「さとえ学園小学校」をモデルにしたレベルアップ型のルールを採用しています。スキルやモラルの向上に応じて自由度が上がるような仕組みで、(1)ICT機器を使うスキル、(2)学校のルールやネットモラル、(3)普段の生活態度の3点において、先生による評価とテスト、チェックシートをもとに総合的なレベルを判断します。
前提としてiPadは学習のために使うもので、学校で管理しているため基本的なルールと制限を設けていますと。ただし普段の学習活動の中でしっかり使いこなしている人や、課題や宿題をしっかりできている人など一定の基準を満たしている場合には、制限を緩めて自由に使える幅を広げられるようにしています。
一方、課題や宿題の提出ができていなかったり、「うちの子、ネットばかり観ているんです…」といった保護者からの相談があった場合には、学校にいる間しかインターネットに接続できないような制限を加えることもあります。
レベルは免許証制度というかたちで色分けをしていて、レベルが上がることによってグリーンからブルーになったり、反対にレベルが下がるとイエローやレッドになって制限されることが増えるようになっています。
そうすることによってiPadは学習するためにあるものだと線引きができるようになり、SNSや動画を観るためだけにiPadを使うようなことは無くなっていくというわけですね。
新設された「医学・難関大コース」にも通じるICTの基本的なスキル
今年度、中等部に「医学・難関大コース」が新たに設置されて、小・中・高12年間の一貫教育に向けた大きな流れができました。初等としても「医学・難関大コース」につなげていくというひとつの目標ができたため、ICTについても基本的な使い方やモラル的な部分についてある程度身につけた上で進学させたいと考えています。
基本的な使い方としてはタイピングもそうですし、調べ学習をしていく上で必要になる検索キーワードのスキルも必要です。またいろいろな場面でプレゼンテーションをする機会も増えるかと思いますが、Keynoteやロイロノートを活用するのも一つの手段かも知れませんね。そういったソフトやアプリをしっかり使いこなせるようにスキルを身につけておくことも重要だと思います。
「医学・難関大コース」にはSTEAM教育プログラムで導入されるe-kagaku遠隔講座というのがあります。情報分析に特化した内容もあるため、そういうところですぐに生かせるICTのスキルを身につけておくことも大切ですね。
学習の場面で活用が進むICTの実際
多彩なソフトやアプリを導入して学習効果を高める取り組み
菅生では現在ロイロノートをはじめ、様々なソフトやアプリを導入して学習効果を高めるための取り組みが進められています。
1 ロイロノート
2 ジャストスマイルドリル
3 デジタル教科書(国語・算数)
4 TERRACE
5 Google for Education
6 プログラミング(Scratch・mbot)
下野先生:
ロイロノートは本校で導入されて6年目になりますが、意見の集約や思考の可視化、特に子どもたちの考えをすぐに共有できるところは有効であり、算数や国語をはじめ社会、理科、英語など様々な授業で活用されています。
また学習アプリとして取り入れているジャストスマイルドリルは、教科書準拠の内容となっているため1年生から取り入れ、その日の学習の定着・反復練習に生かしています。
デジタル教科書については今年度から本格的に導入したもので、アニメーションで動くコンテンツが豊富で、展開図や具体物を使って説明する時などに活用しています。
さらにプログラミングについては2019年度から全学年で取り組みをはじめ、企業連携を進めながらScratchやmbotを取り入れた授業を展開しています。
昨年度の授業内容としては、1・2年生はスクラッチJr.のアプリを使ってアニメーションを作成しました。また3・4年生になるとmbotの動かし方について学び、5・6年生で提示された課題に対する高度なプログラミングを行いました。
集中力を高めながら毎日15分間取り組むモジュールの授業
下野先生:
毎日1時間目の最初の15分間をモジュールの授業として設定して、今年度から新たに導入したTERRACEにも取り組んでいます。TERRACEというのは、速読力・読解力・思考力を伸ばすアプリです。
速読の訓練によって問題文を読むスピードが速くなるだけではなくて、何について聞かれているかを瞬時に判断して答えを導ける瞬発力のような力も伸ばしてくれます。
数字を順番通りに並べるとか、積み木がいくつあるか数えるなど、思考してすぐにアウトプットするまでの判断力を高めるもので、速さだけではなく正確性もひとつのポイントになります。
この訓練によって日々の学習にどれくらい効果があるかは今後実証を進めていくところですが、子どもたちは毎日15分間という決められた時間の中で集中力を高めながら取り組んでいると思います。
ICTを通じて保護者ともつながる「Google for Education」
下野先生:
本校では日々の取り組みを保護者の方にも見ていただけるように、一人ひとりにGoogleアカウントを作成しています。Google classroom を使って連絡帳の配信をしているほか、共有ドライブには行事の写真や動画をアップロードして、保護者の方にもご覧いただけるようにしています。
また共有ドライブには各学年の掲示板を設置しているほか、特別活動や委員会活動ではGoogleカレンダーを使って活動計画の日程共有をしたり、ドキュメントやスプレッドシートを使って資料の協働作業等にも使用しています。
iPadを使った授業や活動の実際について児童2人にインタビュー
1人1台のiPadを持つようになり、普段の授業や活動でどのように活用されているか5年生の児童2人にお話を伺いました。
KOMA KOMAを使ってアニメーションを作ったRくん
Q.まず、好きな教科について教えてください。
図工が好きです。
Q.図工の授業でタブレットを使うことはありますか?
KOMA KOMAというアプリがあって、写真をつなげてアニメーションを作ったことがあります。タブレットを使ってアニメーションを作ったのは初めてだったけど、家に帰ってiPadで見てもらったら「まぁ、すごいね!」と言ってもらえました。
Q.タブレットを使うと便利だなと感じることは?
理科の実験はiMovieに残しておくとわかりやすいけれど、黒板の字とかは鉛筆で書いたほうが楽ですね。
Q.今後、やってみたいことは?
KOMA KOMA以外にもiPadのアプリでいろんなムービーを作ってみたいです。
iMovieで学校の先生の紹介動画を編集したNくん
Q.好きな教科について教えてください。
僕もRくんと同じで図工と理科が好きです。Q.iMovieを使って動画を編集したことがあるそうですが?
去年の代表委員で学校の先生の紹介動画を作る時に、iMovieを使って編集しました。
Q.大変だったことや苦労したこと、また工夫したことは?
動画と動画をつなげる時に声の大きさが変わっちゃったりして、その調整が難しかったです。去年までパソコンとかタブレットを使ったことはあんまり無かったけど、6年生に教えてもらったこととか学校で教えてもらったことを生かして作りました。
Q.今後、やってみたいことは?
6年生に教えてもらった編集の仕方などを今度は自分が低学年の子たちに教えてあげられると良いなと思っています。
Rくん(左) Nくん(右)
菅生学園初等学校 教諭 小松佑将先生のお話
小学生のうちからICTに取り組むことの必要性について
小松先生:
本校におけるICTの取り組みは、コロナ禍の休校要請に伴う一時的な対応というよりも、これからの時代を生き抜く子どもたちにとって触れないで生活していくのは不可能に近く、むしろ社会で有用な人物になっていくためには、早い段階から触れておくことが必要ではないかという考えのもと準備を進めてきたものです。
鉛筆やノートを使うのと同じように学習のためにタブレットを使える基本的な使い方やモラル的な部分も小学生のうちから身につけさせてあげたいと考えています。
昨年度の4月に1人1台のiPadが配布されましたが、子どもたちはわずか1年で使いこなせるようになって、こちらも予期しないような発見やアウトプットをどんどんしてくれています。
例えば、ゆたかルームにある生き物の説明書きは、「こういったものを作ったんですけど掲示しても良いですか?」と自分たちでフォーマットや文面を考えて作って来てくれたものです。
また昨年卒業した6年生の作品なんですけど、学校の四季をアニメーションで表現した動画です。
アニメーション「菅生の四季」(外部のウェブサイトに移動します)https://www.youtube.com/watch?v=Gan-HRme_Rg
好きな子ほどどんどん深めていけるのもICTの特徴
私は図工の専科で先ほどインタビューした子どもたちも図工に関する話をしてくれたのは嬉しかったのですが、ICTが図工でこれだけの発展を見せているのは私も予想していなかったことです。
1階に展示している「いのちの樹」プロジェクトは現在の6年生が中心になって発案したもので、休校期間中にロイロノートを使って制作を進めました。近寄って見ていただくとひとつひとつのタイルが違うのが分かるかと思いますが、一人一人が個別に作ったタイルを組み合わせて一つの大きな作品に仕上げています。
まずタイルを作成するにあたってロイロノートでおたがいの作品を見られる設定にしておきました。するとみんなの作品を見て刺激を受ける中で、自分はこうしようといった工夫も見られました。
学校に登校できなくて友達とも会えずコミュニケーションが不足している時期だったので、みんなで一緒に取り組んでいるという感覚が得られたのはすごく大きかったんじゃないかと思います。
また本校の特色ある教育活動として行なっている「ゆたか」の時間でも、調べ学習をする時にタブレットを使うことが多いのですが、図工とか「ゆたか」の時間といった、自由度が高い授業に関してはタブレットというのはすごく親和性が高いのを感じますね。
好きな子ほどどんどん深めていけるのもICTの特徴で、そういう子が周りに一人でもいると、「それってどうやってやるの?」とか「私にも教えて」といった流れができるんですね。
子どもたちが自分からやりたい、学びたいという気持ちにならないと意味が無いかなとも思いますし、子どもたちが楽しんでやるような授業を通してICTの基本的なスキルやモラルを身につけさせてあげたいと思います。