取材レポート

トキワ松学園小学校

互いに認め合い、ありのままを受け入れてくれる仲間がいる安心感

1クラス23人を基本としたクラス編成で、子どもたちの成長に合わせた柔軟な対応ができる教育環境を整えているトキワ松学園小学校。2024年度の目標として、「学校目標の『健康・感謝・親切・努力』をいつも心にもって生活しよう。」「『好き』を見つけよう、『好き』を究めよう。」「互いに認め合い、高め合う仲間になろう。」という3つを掲げています。それらを体現していく子どもたちの様子などについて、校長の百合岡依子先生、理科専科の坂田雄太先生、1年生担任の林茉里南先生にお話を聞きました。

トキワ松学園小学校 校長 百合岡依子先生のお話
「好き」を究めた児童の素敵なエピソード
トキワ松学園の創立者が残した言葉

理科の授業(5年生)を取材
ヨウ素液を使った実験
トキワ松学園小学校 理科専科 坂田雄太先生のお話
理科の授業を受けた児童の感想(5年生)

トキワ松学園小学校 1年生担任 林茉里南先生のお話
卒業式で宣言した「母校の教員になる」という夢
卒業後も支えとなる母校とのつながり
自然に生まれる子どもたちの「認め合い」

トキワ松学園小学校 校長 百合岡依子先生のお話

「好き」を究めた児童の素敵なエピソード

本校では少人数教育を基本とし、一人ひとりを細やかに見ることを大切にしています。子どもたちのよいところを見つけて、力を伸ばすきっかけに何ができるか考え、2024年度は目標の1つに「『好き』を見つけよう、『好き』を究めよう。」を掲げました。好きなことであれば、「頑張りましょう」と言わなくても自然に頑張れます。「仲良くしましょう」と言われなくても、自然に仲良くなれるのです。好きなものは、自分にとってとても大切なものだと思います。誰にも言わずに、心の中にそっとしまっておくのもよいでしょう。一方で、自分の「好き」を誰かに話したり人前で発表することによって、新たな世界が広がることもあります。先日の全校朝礼で、好きなものを自由に書ける掲示板を設置したことを知らせたら、その日の中休みから掲示板の前に子どもたちが次々と集まってきました。すぐにそれぞれの「好き」を書いたハートマークでいっぱいになり、今では1年生も覚えたばかりの平仮名で書いてくれています。

全校朝礼では、「好き」にはすごい力がある例として、子どもたちの素敵なエピソードを2つ紹介しました。本校では毎年夏休み明けに、子どもたちの自由研究を教室や廊下に展示しています。昨年度は、蜂について調べた3年生がいました。それを見た1年生の児童が、自分も蜂が好きだからこのお兄さんと仲良くなりたいと言って手紙を書いてきたんです。1年生なのでまだ文字を習い終わったばかりだったのですが、養蜂場の場所や防護服について質問するなど、一生懸命に書いたことが伝わりました。

6年生は毎年、全校生徒の前で自分の特技や好きなことについて発表する「個人発表」を行っています。昨年度の発表で、自分が大好きなスポーツ用品メーカーについて熱く語った児童がいました。本校の卒業生がそのメーカーの創業者とつながりがあったことから、メーカーの方から発表した児童にお礼と励ましのメッセージ、そして創業当時の歴史が書かれた冊子をいただくことにつながったのです。
好きなことは自分の力を伸ばすだけでなく、人と人をつなぐ力があることを子どもたちが教えてくれました。初等教育のうちは「好き」を表に出しやすい時期だと思うので、「好き」にはすごい力があることを、様々な体験から感じ取ってほしいです。
校長 百合岡依子先生

校長 百合岡依子先生

トキワ松学園の創立者が残した言葉

もう一つの目標である「互いに認め合い、高め合う仲間になろう。」も、それぞれの「好き」を認め合うこととつながっています。男子だから、女子だからという先入観を持つことなく、学校は誰もが好きなことを堂々と言える場であってほしいです。そのためには、いろいろな人が関わって、いろいろな見方ができる環境が大切だと思います。例えば、専科の授業でも必要に応じて担任が関わるなど、日常的に複数の目で子どもたちを見ています。理科の実験をはじめ男女混合のさまざまなグループ活動は、それぞれの意見を認め合う経験を重ねて、高め合っていく機会でもあるのです。授業の様子を見ると、ノートを綺麗に書く子や進んで発言する子、友達の意見を共感的に聞く子などそれぞれのよさがあり、子ども同士が刺激し合っていることが分かります。

トキワ松学園の創立者・三角錫子先生は、「子供達が銘々持って生れた天分を伸ばしてさえあげればよい」という言葉を残しています。私は、「伸ばしてさえあげれば」の「さえ」が重要だと思っています。子どもたちはもともといいものを持っているのだから、余計なことをせずに、それを潰さないように大事にしてあげましょうと、大正時代に示されていたのです。今掲げている目標も、創立者の考えに根差しているものです。
現在本校には卒業生の教員がおり、毎日子どもたちのために頑張っています。その様子を見ていると、自分のよさをのびのびと活かすことが自然にできていて、本校の教育の価値を実感できます。多少大変なことがあっても、心の根っこの部分が満たされているから頑張れるのです。子ども時代に肯定され愛されることの大切さを、改めて感じています。

理科の授業(5年生)を取材

ヨウ素液を使った実験

5年生が学んでいたのは、「植物の発芽と成長」という単元。ヨウ素液を使って、発芽する前の種子に養分としてデンプンが含まれていることを確かめる実験をしました。坂田先生は含まれるデンプンの量を比較できるように、インゲンマメの種子だけでなく、ご飯とパンも用意。ヨウ素液の説明では、うがい薬に使われていることなども交え、子どもたちの経験と結びつけた説明を行っていました。デンプンが多く含まれるご飯とパンにスポイトでヨウ素液をたらしたときは、はっきりと青紫色に変わったので子どもたちは大興奮。インゲンマメの種子との比較から、子どもたちはご飯やパンにはデンプンが多く含まれていることも理解しました。

トキワ松学園小学校 理科専科 坂田雄太先生のお話

私が授業で大事にしていることは、ただの情報として通過してしまわないように、子どもたちにとって「自分ごと」にすることです。似ている例として生活の中での経験を挙げるなど、子どもたち自身の世界とつなげることを意識しています。今日の実験でも、ご飯とパンを使ったのは、ただデンプンが含まれていると青紫色になると教えるだけより、普段食べているご飯やパンはデンプンが主要素であることも一緒に学ぶことが大切だと考えました。学びと面白さを両立させて、全員が自分ごととして考えて学びを深める授業ができるように、日々研究しています。

テーマによってはグループ実験より個人実験の方が、学びを深められることもありますが、4年生から少しずつグループ実験を行ってきました。小グループで実験すると、自己主張が強すぎるとうまく協力できなかったり、逆に普段は自分を出せていない子が気を遣って動けている様子が見られたりします。そういったよい動きをくみ取って、「みんなもこんなふうにできたらいいね」と投げかけると、みんなで協力することの大切さがわかってくるのです。4年生のうちはうまくいかない部分もありましたが、経験を重ねていくうちにだんだんできるようになってきました。本校では行事や生活、学習場面でさまざまな小グループ活動がありますが、理科の授業内での活動も大切だと考えています。
理科専科 坂田雄太先生

理科専科 坂田雄太先生

理科の授業を受けた児童の感想(5年生)

「理科の授業は、自分たちでいろいろなことを協力しながらやるのがいいと思います。実験の準備なども、みんなでやるから楽しいです。今日は、ヨウ素液を使った実験をしました。デンプンが含まれていると色が変わるので、とても面白かったです」(5年生・女子)

「疑問から実験へと広げていく感じで、毎回とても楽しいです。今日は、ヨウ素液を使ってデンプンを調べる実験をしましたが、ご飯やパンはあそこまで色が変わるとは思っていなかったのでびっくりしました。インゲンマメは、少しだけですが色が変わったので、やはりデンプンが含まれていることがわかりました。実験は1人でやるよりみんなでやる方が、気づいたことを共有できるのでいいなと思います」(5年生・男子)

トキワ松学園小学校 1年生担任 林茉里南先生のお話

卒業式で宣言した「母校の教員になる」という夢

私は小学校から高校まで、トキワ松学園で学びました。2008年に作られた学校案内のパンフレットに私も写っているのですが、このときはみんな写りたがって「あみだくじ」で決めたことを覚えています。この頃には教員になりたいという思いが芽生えていて、卒業式の一言発言(夢や感謝を語るスピーチ)で「トキワ松の先生のような、みんなに信頼される先生になりたいです」と宣言しました。大学時代に様々な職種でアルバイトを経験しましたが、このときの思いが揺らぐことはなかったです。そして3年前に、母校の教員として戻ってくることができました。

アットホームな温かい雰囲気や、子どもたちがのびのびとしている感じは、私が通っていた頃と変わっていません。それはやはり、少人数教育の中で6年間過ごすことで生まれる絆の深さによるところが大きいと思います。先生方は、一人ひとりを認めてくれて決して否定しません。間違ったときは叱って、何が間違っていたかきちんと教えてくれるので、第2の親のようだと感じられました。子ども同士も一人ひとりとの関わりが深く、いいところも悪いところもわかった上で、よさをお互いに認め合うことが自然にできているのが、当時も今も変わらぬ本校のよいところです。
1年生担任 林茉里南先生

1年生担任 林茉里南先生

卒業後も支えとなる母校とのつながり

卒業後も、同期生とは月に1回は集まる機会を作っています。メンバーは固定ではなく5人ぐらいのことが多いですが、今年のゴールデンウイークには23人も集まりました。久しぶりにみんなで学校に来て、担任だった先生にも声をかけたら来てくださって、「もう一度授業をしてください!」とみんなでお願いしたんです。先生に短い授業をしてもらったり、当時流行っていたキックベースをしたり、卒業記念にもらった自分たちが映っているDVDをみんなで見て盛り上がりました。集まるとみんな口々に、「育ってきた環境が同じだと落ち着く」と言っています。トキワ松の仲間と会うときは、「こんなことを言ったら嫌われるかも」などと恐れる必要がありません。取り繕った自分ではなく、素の自分を出せるので落ち着くのです。職場での悩みなども全てさらけ出して相談することができるので、心の支えになるとみんな言っています。

私の同期だけが特別なのではありません。実は私の兄・母・叔父もトキワ松出身なのですが、それぞれの代で今も集まっているそうです。伯父は60代なのですが、一昨日も10人ぐらいで集まったという写真が送られてきました(笑)。仕事や生活スタイルは様々ですが、登山をしたり、旅行をしたり、フラットな関係でいられるので落ち着くと言っています。本校には、卒業生が入会する「さつき会」という同窓会があります。小学生と保護者の希望者が参加する「さつき会スキークラブ」は、「さつき会」の社会人や大学生がコーチとなってみんなでスキーを楽しむ行事です。学園バザーでも「さつき会」のブースがあったり、運動会では卒業生が参加できる競技があり、卒業後も母校とのつながりを感じることができます。在校中も卒業後も、私にとってトキワ松は、ありのままの私を受け入れてくれる、自分を飾らなくていいと思える場所なのです。

自然に生まれる子どもたちの「認め合い」

本校の教員になって最初の2年間は5・6年生の担任をしましたが、受験を前にして少し心が不安定になっていた児童が、みんなの気を引こうとしてわざともめ事を起こすこともありました。そんなとき、「本当はもっと言いたいことがあるのに、今はうまくできないんだよ」「昔から寂しがり屋だったじゃん」「本当は優しいところがあるよね」などという言葉が自然と子どもたちから出てきたんです。みんながわかってくれていることが、彼にとっては救いだったと思います。転校してきた子に対しても、いいところを見つけて受容していく、心の広さが育っていると感じました。嫌なことをされたときでも、自分も嫌なことをしているかもしれないから許してあげようという気持ちが育まれているのです。

今年度は1年生の担任になったので、まだそういった土台はできていません。ケンカをしてしまうこともありますが、「もう嫌い!」でサヨナラしたらもったいないよ、話してみたら好きなものが一緒など意外な共通点があるかもしれないね、という話をしています。子ども同士の対話を大切にして、あの時はケンカしちゃったね、と後で笑えるような関係づくりをしていきたいです。本校は、行事も多いです。失敗を恐れずに前向きに取り組める児童なら、仲間と絆を深めながら様々なことを吸収して成長していけると思います。

取材協力

トキワ松学園小学校

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