関東学院六浦小学校
関東学院六浦小学校は、2019年~2023年の5年計画で「六浦小モデル19-23プラン」をスタートさせました。「私のパレット」「私のポケット」「私のドア」と名付けた3つのプランで、一人ひとりの個性が伸ばせる教育を目指していきます。試行実践期の2019年度、教員や子どもたちがどのように取り組んできたか、カリキュラム担当の安藤修平先生、「総合的な学習の時間」担当の石川雄治先生、施設整備担当の石塚宏樹先生にお話を聞き、「私のパレット」(英語の授業)を取材しました。
「私のパレット」(カリキュラム)担当 安藤修平先生のお話
■「私のパレット」:学習の個性化をテーマにした教科授業プラン
「私のパレット」英語の授業(4年生)を取材
■4年生の思い出「My Best Memory」を英語で発表
4年生の児童2人にインタビュー
■「私のパレット」(英語)の感想
「私のポケット」(総合的な学習の時間)担当 石川雄治先生のお話
■「私のポケット」:自己表現の個性化をテーマにした「総合的な学習の時間」のプラン
4年生と5年生の児童6人にインタビュー
■「私のポケット」の研究テーマと感想
私のドア(施設整備)担当 石塚宏樹先生のお話
■「私のドア」:学校をより楽しい場所にする環境づくりのプラン
私のパレット担当 安藤修平先生
私のポケット担当 石川雄治先生
私のドア担当 石塚宏樹先生
「私のパレット」(カリキュラム)担当 安藤修平先生のお話
■「私のパレット」:学習の個性化をテーマにした教科授業プラン
子どもたち自身で選ぶ「学び方」
2019年度から、学級全体で⾏う⼀⻫授業をベースに、教科や単元によって「私のパレット」(選択型授業や複線型授業)を実施しています。この授業では、いくつかのコースに分かれますが、教員が決めるのではなく⼦どもたちが⾃分でコースを選びます。どちらのコースを選んでも、ゴールにたどり着くまでの学び⽅が違うだけで、出発点とゴールは同じです。例えば、6年生で行った選択型授業では、発展的な内容のぐんぐんコースと基礎的な内容のじっくりコースで行いました。同じ“円の求積公式を学習する”授業でも、様々な等積変形を用いて公式を導くぐんぐんコースと、教科書と同じ求め方をベースに、ハンズオンマスを取り入れて、丁寧に公式を学ぶじっくりコースを用意しました。その後、一斉授業では、習った公式を用いて、演習を進めていきました。この実践により、“覚える”算数から“考える”算数の展開となり、わかる・できる楽しさを児童は感じていました。
「私のパレット」では、2つの課題から好きな⽅を選択して学ぶ複線型授業も取り⼊れています。例えば3年⽣の理科では、⾳の振動について学ぶ実験をする際に、実験の⽅法を2種類⽤意しました。⼀⽅は1つの教材でじっくりと、もう⼀⽅は太⿎やトライアングル、⾳叉など、多くの教材を使いますが、どちらも「⾳は振動によって伝わる」ことを学びます。実験が終わった後には、それぞれの内容を全体で共有し、教員によるフォローもあります。複線型授業で選ばなかった課題に対しての興味も広がり、これまで以上に積極的に質問してきた児童もいます。
少人数で楽しく学んで自信がつくと、一斉授業もより活発に
「私のパレット」で⼤切にしていることは、「⾃分で選んだ」という主体性です。どちらのコースや課題を選んでも、「⾃分で選んだから頑張ろう」という気持ちがモチベーションにつながります。少⼈数になればなるほど能動的になり、⾃分が参加者であるという意識も⾼まります。実験などでは道具に触れる時間も⻑くなり、教員との距離が近くなることで恥ずかしがり屋の⼦でも発⾔しやすくなるのです。⼀⻫授業ではひかえめな⼦たちも、「私のパレット」の授業で少⼈数になれば⽣き⽣きしてきて、⾃分たちで答えを導くようになり、授業も活発になりました。そして、少⼈数で学習したことが楽しさや⾃信につながり、少⼈数から⼀⻫授業に戻ったときにも活かせるようになるのです。それが、「私のパレット」の魅⼒だと思います。
選択型授業や複線型授業を実現させるためには、教員の数も必要になります。試⾏実践期である今年度は、Aクラスで「パレット」を⾏うために学年の担任が2⼈で⼊ったときには、Bクラスを専科の授業にするなど、時間割を変更して調整しています。教員同⼠で協⼒し合い、⼯夫して少⼈数制を実現させているので、教員同⼠のコミュニケーションもこれまで以上に増えました。他校であまり例がないことをやっているので、教員もたくさん研究し、⼦どもたちを観察する⼒も鍛えられています。今年度の経験が財産となり、授業スタイルのレパートリーも増えていき、「私のパレット」が⾃然な形で定着していくことを⽬指しています。今は学年での少⼈数授業ですが、異学年が混ざった授業など、全校レベルでも実施できれば、また新しい授業スタイルが作れるかもしれません。
「私のパレット」英語の授業(4年生)を取材
4年生の思い出「My Best Memory」を英語で発表
今回取材した授業は、「My Best Memory」というテーマで、4年⽣での一番の思い出を英語で伝え合う活動。全4回中の1回⽬と2回⽬で学校⾏事の言葉や気持ちを表す表現などを学んだ後、今回が3回⽬の授業です。同校では、外国や文化の違いに対して、興味・関⼼が⾼い児童が多く、1年⽣から英検にも積極的に取り組んでいます。この単元では、英検5級以上を取得している児童をアドバンスコース、それ以外の児童をベーシックコースとし、ベーシックコースはさらに少⼈数で進められるように名簿の前半と後半で2クラス(2クラスは同じ内容)に分けました。
※英語の場合は習熟度の差が⼤きいことなどもあり、今回は英検取得有無によりコースを決定。
全員であいさつとウォームアップ
授業の最初は、全員であいさつとウォームアップを⾏います。ネイティブ講師と英語専科の⽇本⼈教師、さらに学年2クラスの担任2名が教室内をまわり、How is the weather today?(今日の天気)やHow are you today?(今の気持ち)について英語で質問します。⼦どもたちは、「I’m cold.(今⽇は寒い)」「I’m hungry.(お腹がすいている)」など、英語で答えていました。その後、1⽉〜12⽉を英語で練習したり、運動会や⾃然学校などの学校⾏事を表す言葉を復習してから、3つのクラスに分かれました。
3クラスに分かれて思い出を発表
ベーシックコース(4年生の担任が担当)では、「happy」「sad」「hungry」など、気持ちを伝える言葉が書かれたカードを使って、カルタが⾏われていました。 教師が⾔った言葉を⽿で聞きとり、その言葉が書かれたカードをカルタのように取るゲームです。3〜4⼈のグループに分かれて、⼦どもたちはとても楽しそうに、そして真剣に取り組んでいました。
アドバンスコース(ネイティブ講師と英語専科の⽇本⼈教師が担当)の教室では、iPadを使って「My Best Memory」の発表が⾏われていました。どこへ⾏って、何を⾷べて、どんなことが楽しかったかなどを7行の英語の文章で発表。場所や⾷べ物が空欄になっている英語の文章が⽤意されているので、そこに書き込めば、⾃分のオリジナルの思い出を伝えられるようになっています。ベーシックコースでも同様の発表が⾏われましたが、アドバンスコースの⽅が発表する英語の文章が多い上、友だちの発表を聞き合うことで、たくさんの気づきと出会い、英語で表現することが楽しいと実感できる授業になっています。発表の後には質問タイムがあり、「〇〇は美味しかったですか?」(質問は⽇本語可)などの質問に対して、習った英語や知っている英語を使いながら答えていました。
全員で授業の「振り返り」
発表が終わると、全員が1つの教室に戻り、振り返りシートを記⼊して、感想を共有。振り返りシートには、「チャレンジ(積極的に参加することができた)」「スピーキング(たくさん英語を話す、使うことができた)」「リスニング(たくさん英語を聞くことができた)」の項⽬があり、⾃分で◎〇△をつけます。⾃分の活動を振り返ることが、次の時間の取り組みへとつながっていきます。振り返りでは、「はっきりと発表していて聞き取りやすかった」「3つに分かれていたので自分のレベルで楽しく勉強できた」「秋の⾏事について発表した⼈が多かった」など、多くの児童が挙⼿をして発 ⾔していました。4年生の児童2人にインタビュー 「私のパレット」(英語)の感想
4年生・女子
「My Best Memoryは、クリスマスパーティーについて発表しました。英語で発表するのは初めてだったので緊張しましたが、たくさん練習したのでうまく⾔えるようになりました。iPadで資料を作って発表するのは、とても楽しかったです。3つに分かれて授業を受けるので、先⽣の話もわかりやすいし、発表もしやすいと思います。学校以外で外国人と話したことはありませんが、英語を話すのは好きです。もっと話せるようになったら、外国人と話してみたいです」
4年生・男子
「My Best Memoryは⾃然学校について発表しましたが、うまくできたと思います。1⽇1回は⼝ずさんで覚えたので、紙を⾒ないで発表できました。原稿⽤紙だと間違えたところを消しゴムで消しているうちに、クシャクシャになって読めなくなってしまうことがありますが、iPadを使えば簡単に消せるから楽だし楽しいです。3つに分かれて授業を受けるのは、それぞれの英語の知識にあった勉強が少⼈数でできるのでいいと思います。今も外国⼈の友達が数⼈いますが、もっと英語をペラペラに話せるようになって外国⼈の友達を増やしたいです。話したいという気持ちがあれば通じるので、英語を話すのは楽しいです」
「私のポケット」(総合的な学習の時間)担当 石川雄治先生のお話
「私のポケット」:自己表現の個性化をテーマにした「総合的な学習の時間」のプラン
教科という枠を越えて、⼦どもたちが本当にやりたいことのために時間や設備を確保して、思いきり追及していくのが「私のポケット」です。⾃分で調べたり、⾃分のやることを⾃分で⾒つけることは難しいですが、⼦どもたちが成⻑していく中でとても⼤切なことだと思います。スタートから数か⽉経ち、それぞれのやりたいことがはっきりしてきました。やってみたら難しくて調べられなかったので、テーマを変えた⼦もいます。友達がやっているからと同じテーマにしたら、⾃分が興味のあることではなかったので続かず、テーマを変えたら⾯⽩くなったという⼦もいました。中には、教員たちが思ってもいなかったテーマで研究している⼦もいます。例えば6年⽣には、ほかの児童が⾏っている「私のポケット」の活動や学校行事を取材して、写真や動画で記録している⼦がいて驚きました。学年が上がるほど視野も広くなってくるので、6年⽣は⾯⽩い研究が多いです。
2⽉には、4年⽣〜6年⽣が縦割りでチームを作る「ポケットラボ」を初めて実施します。6年⽣は下級⽣のお⼿本になることを意識したり、下級⽣は上級⽣を⾒て「こんな研究をしてもいいんだ!」などと感じたり、⼦ども同⼠で切磋琢磨していくと⾯⽩くなっていくでしょう。「ポケットラボ」は、⼦どもたちにとって様々なきっかけになると思います。同じことに興味を持った⼦どもたちが学年を越えて集まると、活動にどんな広がりが出てくるか楽しみです。3⽉にはクラス内で発表する場を⽤意しているので、それに向けてパソコンで資料を作ったり、iPadでまとめている⼦もいます。しかし、発表は全員ではなく希望者だけです。選んだテーマに⼀区切りついて発表したい⼦は発表し、まだ調べ続けたい⼦は続ければよいのです。3年⽣~5年⽣は、来年度以降も同じテーマを続けることもできます。外部のコンクールに⾃分で応募して発表の機会を作り、受賞という成果を出した⼦もいるので、研究の深さや⻑さも様々です。
「私のポケット」の授業中にそれぞれの活動を⾒ることで、友達の意外な⼀⾯や特技に気づくなど、⼦どもたち同⼠の発⾒にもつながっています。「ポケット」の活動を記録しているノートをほかの児童に⾒せたい⼦が、教室の⻑机に置いているクラスもあります。それを読むと、ほかの⼦の活動内容を知ることができますし、ノートの書き⽅が上⼿だと書き⽅を参考にする⼦もいます。ほかの教科で学んだことを「ポケット」に活かしている様⼦も、少しずつ⾒られるようになりました。個⼈的な思いとしては、「ポケット」の活動として⼦どもたちが「私のドア」に関わり、学校の設備をデザインしていったら⾯⽩いと思っています。今年度は試⾏実践期であり、進めていくうちに⼦どもたちも教員もいろいろとわかってきました。今後も⼦どもたちの様⼦を⾒ながら、本格実践期に向けて調整していきます。
4年生と5年生の児童6人にインタビュー 「私のポケット」の研究テーマと感想
テーマ:犬の歴史(4年生・女子)
「犬が好きなので、犬の歴史について調べて冊子にまとめました。今の犬と犬の祖先は、見た目は似てなくてもしぐさなどが似ています。たとえば、今の犬が穴を掘るしぐさをするのは、犬の祖先が巣穴を掘って暮らしていたことが影響しているとわかりました。調べるのはたいへんでしたが、犬の祖先についていろいろな特徴がわかって楽しかったです」
テーマ:釣りのコツ(4年生・男子)
「おじいちゃんと釣りに行くと、おじいちゃんばかり釣れるのが悔しかったので、釣りのコツを調べました。魚の動き方やどうやってエサに食いつくか、インターネットや本で調べたことを1つずつ試していくというやり方です。エサを揺らしすぎていたから釣れなかったと気付くことができ、改善したら釣れるようになりました。前は全然釣れなかったのに、今は1時間に2匹ぐらい釣れます。調べたことを実践して釣れたときが、一番うれしかったです」
テーマ:自衛隊の仕事(5年生・女子)
「両親が⾃衛隊の仕事をしているので、どんな仕事をしているか職場に⾏って調べました。夏休みに横須賀へ⾏き、許可をもらって船の中を⾒学しました。機械なども近くで⾒ることができ、働いている⼈たちに船の種類を教えてもらったり、資料もたくさんもらったのでiPadを使ってロイロノートにまとめています。細かいところまで、いろいろ優しく教えてもらえてうれしかったです。船の中には⾃動販売機などもあったので、どうやって電気を通しているのかなど、もっと調べたいと思いました」
テーマ・警察官の採用試験(5年生・男子)
「小さいころからヒーローが好きで、だんだんと警察官や⾃衛隊など、誰かを守る仕事がしたいと思うようになりました。今は警察官になりたいと思っているので、採用試験の過去問を解いてみることにしました。問題は難しいですが、⾃分で解けるものもあります。例えば、公倍数を使う問題は算数で習ったので解けました。頭をひねれば解ける問題もあります。解いた後は解説を読んで、間違っていたところをもう1度解きなおしてわかるまでやります。絶対警察官になりたいので、知識を増やしてすべての問題が解けるようになりたいです。正解できたらうれしくて、難しい問題ほど解けたときのうれしさが⼤きいので、難しい問題にも挑戦していきたいです」
テーマ:リンゴの種類と育て方(4年生・女子)
「3年生のとき、授業でミカンのことを調べたのがとても楽しかったので、今度はリンゴについて調べてみようと思いました。一番小さいリンゴと一番大きいリンゴの大きさを比べたかったので種類を調べて、姫リンゴと世界一というリンゴの実物大模型を作りました。世界一というリンゴが、こんなに大きいなんてビックリです。模型のほかに、リンゴの種類や育て方を冊子にまとめたり、新聞も1枚作りました。ミカンと同じように、リンゴにもたくさん種類があると知ることができて楽しかったです」
テーマ:ドローンの操縦と撮影(4年生・男子)
「学校でドローン教室に参加したら面白かったので、もっといろいろやってみたいと思って、ドローンをテーマにしました。ドローンを飛ばして、体育館や4階の廊下を撮影したときが楽しかったです。4階のギャラリーに展示されている作品を撮影したら、いつも見ているのとは違う角度から見ることができました。撮影した動画は、マイムービーというアプリで編集して作品にします。マイムービーの使い方は少し先生に教えてもらいましたが、自分でできるようになりました。ドローンを飛ばしたり、マイムービーで編集するのは難しいけど楽しいです」
私のドア(施設整備)担当 石塚宏樹先生のお話
「私のドア」:学校をより楽しい場所にする環境づくりのプラン
「学校生活の個性化」をテーマに施設改修などを進めていく「私のドア」では、4階のライブラリーとギャラリーに着手しています。ライブラリーは夏休み中に間取りを大幅に変えて、2つの部屋を連結して広い空間になりました。ライブラリー前の廊下は、西から東まで連結して避難経路を確保。古くなっていた書架を新しいものにしたり、蔵書も増やしました。ライブラリーを「本の森」にしたいと考えているので、植物を増やしたり、心地よく座れるソファなども入れようと、今選んでいるところです。4階に行くだけでわくわくするような、下の階とは違う世界にしたいので、子どもたちの力も借りて「本の森」のイメージに沿った空間にしていきたいです。3階のロビーにもソファや観葉植物を置き、子どもたちが気軽に集えるようなスペースにしたいと考えています。来年度が始まるころには、お披露目できるように準備しています。
改修により、ライブラリーが以前より開放的で学びを共有しやすい空間になったので、学年やクラスによってはライブラリーで授業を行ったりもしています。「私のポケット」の調べ学習なども、以前よりしやすくなりました。「パレット」「ポケット」「ドア」は独立したプランではなく、それぞれがリンクしていて、相乗効果が期待できるプランです。「私のドア」は、子どもたちが帰属意識を持てるような場所を、子どもたちと一緒に作っていきたいと考えています。シンボルツリーのようなものを作って、子どもたちが作ったオーナメントを飾ったりするのもよいかもしれません。今年度は4階と3階を中心に改修していますが、来年度以降も少しずつ、子どもたちの創意工夫につながるような環境づくりを進めていきます。