取材レポート

関東学院六浦小学校

自分で選ぶ力を育む「六浦小モデル19-23プラン」3年目

関東学院六浦小学校は、2019年~2023年の5年計画で「六浦小モデル19-23プラン」を進めています。一人ひとりの個性が伸ばせる教育を目指し、「私のパレット」「私のポケット」「私のドア」と名付けた3つのプロジェクトを試行中。当初の計画では 2020 年度から実践期間に入る予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響を想定して延伸プランを立て、2021年度まで試行期間となりました。試行期間2年目の2020年度を振り返り、教員と子どもたちがどのように取り組んできたか、カリキュラム担当の安藤修平先生、総合的な学習の時間担当の石川雄治先生、施設整備担当の石塚宏樹先生にお話を聞きました。

「私のパレット」(カリキュラム)担当 安藤修平先生のお話

「私のポケット」(総合的な学習の時間)担当 石川雄治先生のお話

5年生と6年生の児童2人にインタビュー
「私のポケット」の研究テーマと感想

「私のドア」(施設整備)担当 石塚宏樹先生のお話

ほっこりカフェ

ほっこりカフェ

「私のパレット」(カリキュラム)担当 安藤修平先生のお話

学習の個性化をテーマにした「私のパレット」

「私のパレット」では課題別や習熟度別に、1つのクラスを少人数に分けて授業を行います。ポイントは、教員が分けるのではなく、子どもたちがどの授業を受けるか自分で選ぶことです。今後の展開としては、異学年が一緒に受けられる授業を行ってみたいと考えています。

本校は英語にも力を入れており、1年生から英語の授業は週2時間です。ネイティブ教員もいます。1年生でも聞き取りができる児童や、低学年や中学年でも英検3級以上を持っている児童もいます。そのような児童が、高学年と一緒に授業をするなど、学年の壁を越えて授業を受けることができたら、さらに力を高めることができるでしょう。英語での異学年混合の実践は検討中ですが、7月に5、6年生混合での算数をパレットの研究授業として実施します。パターンブロックを使うなど、教科書にとらわれず、思考力を育む授業なら学年は関係なく行えます。5年生は6年生に刺激を受けて、6年生は下級生に教えることで学びが深まり、お互いによい学びの機会になると思います。実施後に子どもたちの感想を聞き、反応を確認した上で、英語の授業にも活かしていきたいです。

「私のパレット」担当 安藤修平 先生

「私のパレット」担当 安藤修平 先生

1年生も自分で選ぶ楽しさを体験

1年生は、まだ習熟度別や課題別で選ばせるのが難しいので、研究授業はストーリー仕立てにして選びやすくしました。図形の単元だったので、「形の国の王さまからの挑戦状にチャレンジしよう」という設定にして、2つの課題や教材から、好きな方を児童が選択していきます。例えば、色板で「ガリバーの家」を作るグループと「ガリバーの船」を作るグループに分かれます。教員が「挑戦状が届きました!」と見せたら拍手が起きるなど、子どもたちは設定を楽しんでいました。自分たちで選ぶことで、授業に対する興味や意欲がプラスされ、モチベーションを高くもって授業に入れると実感しています。

昨年度は、一斉休校があったため6月からの登校となりましたが、1年生には6月にスタートカリキュラムが実施できました。1年生はまだ自分の身の回りのことができない児童もいたり、不安を感じている児童もいたりするので、担任が授業をする中にフォローする複数の教員を配置しました。担任だけだと、準備ができていない児童やわからないことがある児童がいたときに、全体の時間を止めて対応することになります。1つのクラスに複数の教員が入ることで、全体の流れを止めずに対応することができました。クラスを分ける授業ではありませんが、同じ教室の中でも担任以外の教員と1対1の関係を作ることができます。これもパレット(パーソナル・ウィズ)としての取り組みです。子どもたちは担任以外の教員とも話せるようになり、休み時間などのコミュニケーションも広がりました。個別の対応が特別なものではなく、少人数制が当たり前になるように、そのベースを作ることができたと思います。

「私のポケット」(総合的な学習の時間)担当 石川雄治先生のお話

自己表現の個性化をテーマにした「私のポケット」

「私のポケット」では、4月に自分で調べるテーマを決めます。ポケットを始めた1年目は、自分で決めることが難しいと感じている児童が多かったですが、2年目、3年目と経験を重ねるうちに、友達や上級生の活動も参考にして、自分で決められるようになってきました。研究していく中で、ここまでわかったから次はもっと深めたいとか、調べ方がわかったからそれを活かして次は新しいテーマに挑戦したいなど、前年の経験を活かしてよりよい形で研究に取り組めるようになっていきます。

新型コロナウイルスの影響で昨年度は少ししかできませんでしたが、「ポケットオプション」という取り組みを進めていきたいと考えています。自分の教室で研究を進めるのが「ポケットルーム」で、その発展として教室以外の活動場所で、同じテーマを研究する異学年が集まって進めるのが「ポケットオプション」です。例えば、サッカーをテーマに研究をしたくても、クラスの中では3~4人ぐらいしか集まれず、基礎練習しかできません。同じ時間にポケットをやっている他学年の児童も一緒にやれば、試合に近い練習ができるようになります。活動する場所も自分で選び、同じことに興味を持った児童たちが縦割りで活動できたら、よりよい研究ができるでしょう。上級生と一緒にやることで質を高め、下級生に教えることで分かりやすく説明できるようになるなど、相乗効果が期待できます。

「私のポケット」担当 石川雄治 先生

「私のポケット」担当 石川雄治 先生

系列の中学・高校や大学との連携も視野に入れて展開

異学年で行う「ポケットオプション」を実現させたら、さらにダイナミックに展開していきたいとも考えています。例えば、関東学院の大学や中学・高校と、ポケットを通した連携です。大学には様々な専門の先生がいるので、「魚のことなら、〇〇研究室の先生に聞いてみよう」とか「理科の実験なら、中学・高校の先生に聞けばもっと面白い実験ができる」など、連携できればより学びを深めることができるでしょう。学校の周りには海があり、横須賀には米軍基地もあるので外国人も多いです。学校を越えた環境に目を向ければ、よりダイナミックな展開ができると思います。新型コロナウイルスの影響でICTの活用も進み、直接会えない人ともオンラインで会えるようになりました。離れたところにいる人ともやりとりができるので、来年度ぐらいまでに専門性のある人とつながるチャンスを作りたいです。

年度末には、学年やクラスごとにポケットの発表を行っています。昨年度も、ロイロノートを使ったり、写真を見せたり、画用紙に絵を描いたり、子どもたちはいろいろな工夫をして発表しました。発表する本人も一生懸命ですが、聞いている児童たちも友達の研究に興味を持っていることが感じられます。発表は、自分が好きなことを人に知ってもらう場であり、友達に認めてもらえる場です。リカちゃん人形について調べている児童やアニメの絵を描く児童もいるので、作った作品を系列こども園に展示してもらい、園児たちに見てもらうことなども検討しています。年下の子どもたちにも興味をもってもらえたら、より大きな達成感が得られるでしょう。

5年生と6年生の児童にインタビュー 「私のポケット」の研究テーマと感想

テーマ:「クラフト」(5年生・女子)

「小さくなった制服を使って、人形の洋服を作ってみたらとてもかわいくて、他にも作りたくなったので、クラフトをテーマにしました。着られなくなったものを捨てるのはもったいないので、いろいろなものにリメイクしたいです。作り方は、インターネットやクラフトの本を見て調べました。着られなくなった制服でタッセルを作ったときが、一番楽しかったです。工夫したところは、ブレザーのワッペンを使ったことです。3年生のときには名探偵コナンについて調べて、4年生でクラフトを作ったので、5年生ではそれを合体させて名探偵コナンのグッズ作りをしています」

テーマ:「細胞・細菌・ウイルスの研究」(6年生・女子)

「テレビで『はたらく細胞』というマンガが紹介されていたのを見て、面白そうだと思って読んだのがきっかけで、細胞や細菌に興味を持ちました。これを5年生のテーマに選んだのは、ポケットでやる前から自分で調べていたことを活かして、もっと知りたいと思ったからです。自分で覚えるだけでなく、新型コロナウイルスのことなどもみんなに知ってほしかったので、クイズを作ったり、紙粘土で模型を作りました。発表のときにクイズを出したらみんなも答えを考えてくれたので、少しは知ってもらえたと思います。調べたらもっと知りたくなったので、将来は細菌と細胞の科学者になりたいです」

「私のドア」(施設整備)担当 石塚宏樹先生のお話

学校をより楽しい場所にする環境づくり「私のドア」

「私のドア」は、子どもたちが遊び方を考えたり、遊びを通して学べる場所、ゆったりくつろげる場所、いきいきと学びを共有できる場所を作っていくというコンセプトで取り組んでいます。3階と4階に設けた「ほっこりカフェ」は、友達同士でおしゃべりをしたり、自習をしたりと、いろいろな使われ方をしています。「ほっこりカフェ」の需要があることがわかったので、他の場所にも増やしていきたいです。

図書室にはシンボルツリーや植物も設置して「本の森」らしくなってきましたが、もっと森のような豊かな場所にしていきたいと思っています。装飾による工夫だけでなく、本の紹介や植物の紹介など、子どもたちが作る部分も少しずつ進めています。私のポケットで制作されたものを、いつでも見られるようなスペースとして、「ポケットギャラリー」も作っていきます。1、2年生は、私のポケットで何をやっているか、まだよく知りません。「ポケットギャラリー」で学びの共有ができれば、1、2年生がイメージを膨らませた状態で3年生に上がれると思います。

ギャラリーの展示スペースにある棚と図書室の座椅子は、関東学院大学の学生が卒業制作として作ったものです。図書室には、先月テントを設置しました。子どもたちは、テントの中で落ち着いて本を読んだり、キャンプに行った気分を味わったり、秘密基地のような感覚で楽しんでいます。「私のドア」は秘密基地がコンセプトの1つでもあるので、そのような場所をもっと作っていきたいです。テントは特に低学年の子どもたちが気に入って使っています。子どもたちの楽しそうな様子を見ると嬉しくなります。

「私のドア」 担当 石塚宏樹 先生

「私のドア」 担当 石塚宏樹 先生

子どもたちの声から始まった「ペイントプロジェクト」

昨年11月には、「ペイントプロジェクト〜自分たちで安心空間をつくろう〜」を実施しました。きっかけは、子どもたちからの「更衣室が暗いから明るくしたい」という声です。日本ペイントさんがCSR活動として「HAPPY PAINT PROJECT」を実施していると知り、壁をきれいに塗り替え、自分たちの手で居心地のよい空間を作り出そうという企画が生まれました。日本ペイントさんから抗ウイルス・抗菌塗料を提供していただき、ローラーやバケットは大学から借り、準備や片付けは大学生にも協力してもらいました。

下準備として、壁に付着した埃や皮脂を落とす清掃作業を4年生が担当しました。6年生は、2日間かけて淡いクリーム色にペイントしました。手あかで黒ずんでいた壁面が明るくきれいになり、子どもたちの手で更衣室を安心・安全な空間にすることができたのです。これで完成ではなく、ペイントした壁をキャンバスに見立てて、絵を描くことも検討しています。デザインも子どもたちが考えて、毎年更新されていくのも面白いかもしれません。学校の施設に自分達の手で色を塗ることを通して、より学校に愛着をもってもらえたらいいなと思っています。更衣室以外にも、ペイントできる場所がないか探っていきたいです。

取材協力

関東学院六浦小学校

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