取材レポート

川村小学校

ICTを活用した学びも1歩ずつ着実に展開

2020年度は新型コロナウイルスの影響で、授業や行事などに様々な制約がありました。そのような中で、川村小学校では4月の早い時期からオンライン授業を実施。授業でのICT活用やオンライン文化祭などについて、川村小学校教頭の渡邊隆之先生にお話を聞きました。

川村小学校 教頭 渡邊隆之先生のお話

川村小学校 教頭 渡邊隆之先生のお話

休校中はオンデマンド型のオンライン授業を実施

2020年4月7日に発令された「緊急事態宣言」を受け、本校では4月13日からオンライン授業を開始しました。本校でもiPadの導入を進めていますが、4月の時点で1人1台iPadを持っていたのは6年生のみです。しかし、まずは授業を行うことが大切だと考え、本校からの貸し出し用も用意したうえで、各家庭で所有している端末を使ってオンライン授業を行うことにしました。

配信した授業は、YouTubeを使ったオンデマンド型です。仕事をしている保護者もいるので、朝9時に動画のURLを配信して、20時まで見られるようにしました。毎日5~6本の授業を配信し、時間割は1週間分を事前に配布。初回は担任の挨拶から始めて、これからどのようなことを学んでいくのか説明しました。1本の動画は数分から、長くても30分程度です。長いと飽きてしまうので、次回までに子どもたち自身で考えたり、課題に取り組めるような構成にしました。

オンデマンド型は、わからなかった子は何度も見ることができますし、個々のペースで進められる点もよかったと思います。英語や体育、家庭科、音楽も含めて、全教科を配信しました。休校中は体を動かす機会が減ってしまうので、体育の授業も大切です。保護者の皆さんも授業を熱心に見てくださったようで、家庭科の調理実習では、実際に作ってみた感想なども寄せられています。4月23日からは授業を配信する前に、Google Meetでクラス単位の朝礼を行って健康確認なども実施。Google Meetの導入により、授業も時々ライブ配信を行うようになりました。6月から週2回の分散登校を開始して、登校しない4日間は動画配信によるリモート授業。7月2日から全員で登校するようになり、やっとクラスメイト全員に会えた子どもたちは、本当に嬉しそうでした。

ICT活用の環境を整えながら教員もスキルアップ

オンライン授業に先立って、3月から小・中・高の教員で授業の配信について話し合い、まずGoogleのアカウントを作ることから始めました。Googleアカウントは中・高へ引き継ぐことができるので、小学生から高校3年生までの作品やデータを蓄積することも可能です。Google Classroomを使い、課題の採点や返却なども効率よく行えるようになりました。また、Google Meetで授業をライブ配信できるようになったので、本人は元気なのに家族が濃厚接触者になって、休まざるをえないときなどにも教室の様子を配信しています。

休校中のオンライン授業では、最初は録画したものをそのまま配信していましたが、中・高の教員とも知識や情報を共有して、教員たちもスキルアップしていきました。不要な部分を編集でカットしたり、タイトルやテロップを入れるようになるなど、日を追うごとに見やすい動画を配信できるようになったと思います。教員同士の連絡にもICTを活用し、情報を共有したり蓄積できるようになりました。授業に関しては、教員同士がお互いの使い方を知ることで活用の場を広げることができるので、研修の機会も増やして、各教科で情報共有していきたいと思っています。

今年度、iPadを授業で使っているのは5~6年生ですが、2021年度から4年生も加わり、4~6年生が1人1台所有して活用していきます。教員側の理解やスキルなども重要なので、子どもたちに渡して満足するのではなく、しっかりと活用できる環境を整えることが大切だと考えています。小学校に入学して、新しい勉強が始まる段階でいきなりiPadを渡しても、子どもたちは戸惑ってしまうでしょう。まずは、学校生活のリズムをしっかりと作ることを大切にしながら、活用できる環境を整えていきます。

授業の様々な場面でICTを活用

教員や子どもたちのiPadに入っている「MetaMoJi ClassRoom」は、学習状況をリアルタイムに把握できる授業支援アプリです。ソフトウェアキーボードからの入力だけでなく、指や電子ペンでの手書きもできるので、紙に書いているような感覚で使えます。リアルタイムに教員の書き込みが児童の端末に表示され、教員の端末には児童一人ひとりの画面がリアルタイムに一覧表示されるのがこのアプリのよい点です。今までは自分の考えや答えを「ノートに書いて」と言っても、答え合わせを待って書かない子もいましたが、「iPadに打って」と言うとほぼ全員が書きます。このような変化も、ICT活用のメリットだと思います。

調べ学習や発表には、Googleのアプリ「スライド」*も活用しています。例えば、5年生の「総合的な学習の時間」には、SDGsについて調べて発表するという課題を実施しました。小学生には難しいテーマですが、まずはSDGsについて関心を持つきっかけを作ることが大切です。iPadを活用したら、みんな興味を持ってどんどん調べて、発表用の資料もきれいにまとめることができました。iPadを使わなければ、ここまではできなかったと思います。
* Googleの「スライド」は、Officeの「PowerPoint」と同じような機能のアプリ。

多様なアプリや機器に触れる機会を用意

情報教育としては、メディアルームや情報処理室を使って、プログラミングやパソコンのキーボード操作などを学びます。将来の様々な可能性を考えて、Officeの「Word」「Excel」「PowerPoint」の使い方やタイピングなども体験する機会を用意。プログラミングの授業は、低学年も楽しみながら学べる「スクラッチ」を中心に進めています。PCを使って、ゲーム感覚でプログラミングを体験できる「アルゴロジック」(課題解決型ゲームソフト)や、ipadにはプログラミング言語「Swift」が学べるアプリも入れています。自由に使うことができるので、できる子はどんどん覚えて使いこなしていきます。

教科書の勉強だけでなく、「何で?」「そうなんだ!」などと感じる体験も貴重な学びです。教科書以外の学びとしてICTをさらに活用し、来年度以降、1~2年生の算数に思考センス育成教材アプリ「ThinkThink!」を導入します。「空間認識」や「平面認識」など、ミニゲーム形式で思考力を育むアプリです。このようなアプリも活用しながらICTに触れる機会を作り、体験できる環境を整えていきます。

「オンライン鶴友祭」にもチャレンジ

2020年度は、蓼科学習などの宿泊学習や多くの学校行事ができなかったことが残念です。しかし、子どもたちは行事を通して成長していくので、行事もできる範囲で実施しています。例えば、「オンライン鶴友祭」などの新しいことにもチャレンジしました。オンラインの場合、著作権の問題に注意しなければなりません。子どもたちには、そこもきちんと教えました。例えば、バトンクラブが子どもたちが選んだ曲を使って踊りたくても、オンラインになると著作権の問題で使うことができないという、法律の話もしています。すると、劇をやることになった5年生は、台本を1から全部自分たちで考えて創り、音楽も著作権の問題がないものを自分たちで選びました。「オンライン鶴友祭」という形になったからこそ、このような学びができたのです。

2日間にわたって開催された「オンライン鶴友祭」では、図工作品や各クラブの作品などを紹介したり、クイズ大会やハンドベルの合奏などに取り組みました。ライブ配信では、教員が視聴数をカウントし、数が増えていくと子どもたちも大喜び。音声が途切れるハプニングなどもありましたが、例年とは違う形の良い思い出になったと思います。

小学校は「人と人が出会う場」

この1年でICTの活用について、教員たちの意識は大きく変わりました。一方で、対面授業の楽しさや大切さを再確認した1年でもありました。教員と子どもたち、双方で授業をつくっていくものだと改めて実感しています。6月から分散登校となり、7月にクラス全員が揃ったとき、子どもたちは本当に喜んでいました。そして教員たちも、カメラではなく、子どもたちの前で授業ができることに、大きな喜びを感じました。対面授業では、教員が想定していなかった発言をする児童もいます。教員の想定通りに整う授業はありません。脱線して当然なのです。それが、面白い展開や新たな展開へとつながります。子どもたちの成長には、人と人が出会うことが必要です。小学校は勉強するだけの場所ではありません。小さなケンカも大事です。この1年の経験を活かし、ICTを活用しながらも、人と人との出会いを大切にし、学びの環境を更に整えていきたいと考えています。

取材協力

川村小学校

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