取材レポート

啓明学園初等学校

ICTの活用により「創造的な学び」を促す啓明の新たな教育活動

自然環境に恵まれた3万坪もの広大な敷地を有し、「森遊び」と呼ばれる体験学習をはじめ子供たちの感性や創造性、考える力の育成を目指した独自の教育を実践している啓明学園初等学校。2017年度から取り組む「創造的な学び(クリエイティブ・ラーニング)」を重視した学習活動とともに、2020年度には全学年で1人1台のiPadが配布され教科+ICTの流れに注目が集まっています。今回は研究主任としてICTの導入を牽引した杉山健太郎先生を訪ね、啓明が取り組む新たな教育活動の実際についてお話いただきました。

啓明学園初等学校 学習研究センター主任 教諭 杉山先生のお話

「創造的な学び」とICTをテーマにした2020年度のオンライン実践報告会

  • コロナ禍で初めてのオンライン実践報告会を開催
  • スクールタクトのHP上で教科+ICTの取り組みを公開
  • ICTを活用することによって広がる教育活動の可能性
  • デジタルとアナログそのどちらも生かした教育活動を展開
  • 啓明学園初等学校 学習研究センター主任 教諭 杉山先生のお話

    2020年5月に全学年1人1台のiPadを導入

    まずICTの現状ですが、コロナ禍の緊急事態宣言に伴い休校となった2020年5月に全学年1人1台のiPadが一斉に配布され、この半年間で子供たちはもちろん先生方のICT化も急速に進展しました。

    本校でICTが導入されるようになったのは2015年度まで遡るのですが、当初は英語のリスニングでiPadを用いるところからはじめ、2019年度には国語や算数といった授業でも活用するようになっていました。またプログラミングについて学ぶICTという授業も週1時間設け、現在の4年生以上の子供たちにとってはiPadを使って授業をすることが身近なことになっていました。

    しかしながら学校据え置きで運用していたため、今回のように1人1台自宅に持ち帰ることができて、なおかつ1年生から扱えるようになったことは、今後の啓明の教育活動を推し進める上で大きな変化をもたらしたと感じています。

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    すべての授業で鉛筆、ノート、iPadを標準化

    本校ではスクールタクト(schoolTakt)というシステムを導入して、国語、算数、理科、社会といった授業でも常に机の上にはiPadが置かれているような状況で、鉛筆やノートと同じように扱われています。

    各教科の取り組みの実際については、後ほどお話する実践報告会の内容を交えながらご紹介したいのですが、この半年間ですべての先生がスクールタクトを使った授業づくりを展開できるようになりました。

    これは先生方にとっても大きな変化で、実は2019年度の時点ではまだ教員用のiPadは用意されていなかったんです。そのため休校期間中に教員用のiPadが配布され、そこで初めてスクールタクトを触ったという先生も多かったんです。

    そういう状況でスクールタクトを使って課題を送信したり、動画を編集して配信したりといったオンラインの対応が求められたので、ベテランも若手も関係無く先生方一人一人が意見を出し合い、おたがいに教え合い支え合うような教員集団の成長というのも大きな変化だった思います。

    全員参加の教員研修会は計6回、それ以外にも学年ごとの対応を検討しようと低学年、中学年、高学年の先生方が自然発生的に集まったり、動画の編集など得意な先生がいればそのノウハウを発表してもらってみんなにシェアしてもらうということを続けました。

    とにかくすべての先生が同じ情報を共有していることを常に意識して、「それ良いね」「真似してみよう」「自分なりに工夫してやってみよう」…といった啓明が重視する「創造的な学び」を教員間でも実践していました。

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    課題に対して発展的に積み上げて行ける力を促す「創造的な学び」

    「創造的な学び」というのは2017年度から取り組んでいる啓明独自の教育活動をあらわすキーワードで、クリエイティブ・ラーニングとも言います。

    体験学習や様々な教育活動を通じて子供たちが「なぜ?」といった疑問や課題を発見するところからはじめ、主体的・協働的に探求し、さらにそれを表現したり発表し合ったりして高めていくという過程を学びのサイクルとしてあらわしたものです。

    「創造的な学び」とは何か? 当初は私たち教員にとっても実感として分からないことが多かったのですが、2017年度から毎年開催している実践報告会をはじめ、今回のICTを導入するにあたって先生方が取り組んで来たことこそが創造的であったと気がつきました。

    つまり課題に対して自分の持てる力を発揮しながら、主体的・協働的に取り組み、常に発展的に積み上げて行くその過程こそが創造的であり重要なのだと。

    勉強になぞらえて言うと、「創造的な学び」のサイクルをまわすためにはベースとなる基本的な学習と、さらに発展的な学習の段階があると考えられていて、基本的な学習と言うのは読み書きそろばんのような習熟して身につける力のことで各教科における基礎・基本の定着がこれに当たります。

    基本的な学習でしっかり力が身についていると、教科横断的な課題にも取り組めるようになり、国語と社会の力を組み合わせて課題に取り組むとか、算数と理科の力を組み合わせて疑問を解決するといった発展的な学習の段階に至ります。そのような力の発揮を促すのが「創造的な学び」であり、将来の予測が困難なこれからの時代を生き抜く子供たちにとって必要な教育活動だと考えています。

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    「創造的な学び」とICTをテーマにした2020年度のオンライン実践報告会

    コロナ禍で初めてのオンライン実践報告会を開催

    2017年度から取り組む「創造的な学び」をテーマにした実践報告会はこれまで、年に1回、20名前後の教育関係者あるいは研究者の方々に参加をいただいて、公開研究会というかたちで開催して来ました。

    今年度はコロナ禍の感染拡大防止の観点からオンラインでの開催を初めて企画し、「創造的な学び」にICTを取り入れて何ができるかといったテーマで7月、10月、12月の計3回に分けて行いました。

    例年と大きく異なる点としては、すべての先生が発表に取り組んだというのがひとつと、オンラインにしたことで普段なかなか知り合えないような遠方の教育関係者の方に参加をいただいたり、保護者の方の関心も高く、各回100名を超える規模の実践報告会となりました。

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    スクールタクトのHP上で教科+ICTの取り組みを公開

    実践報告会の内容はスクールタクトのHP上でもご覧いただけるのですが、本校における教科+ICTの実際の取り組みがまとめられています。

    例えば1年生の国語では、色使いへの配慮やイラストを多く使うことで楽しく興味を持って学べるように工夫されています。先生の話し方や抑揚のつけ方もはっきりと聞きやすく、まるで絵本の読み聞かせをしてもらっているかのような楽しい内容です。

    1年生にとってiPadに触るのはもちろんひらがなの導入も初めてといった状況ではあったのですが、スクールタクトを使って学習シートに取り組んだり、zoomを使った発表会まで行ったりしていました。

    また3年生の社会では、「オンラインでもできる学校たんけん」というテーマで発表に取り組みました。例年は子供たちが学校の敷地内を歩き回って学習をするのですが、今年度は先生自ら探検隊の目線で学校の敷地内を歩き、ワイプで自分を映したり現在地を地図で示しながら歩くといった旅番組さながらの仕上がりでした。

    他にも自宅でピアノを演奏している様子をオンラインで確認したり、zoomを使ってみんなで一斉に縄跳びの練習をするといった取り組みもありました。

    いずれも先生方にとっては初めての試みでしたが、2回目、3回目となるにつれて先生方の経験値も上がり、作り込みのスキルも上達しているので内容的にはかなり充実していると思います。一般に公開されているので、ぜひご覧いただければと思います。

    スクールタクトHP(外部のウェブサイトに移動します)
    https://schooltakt.com/schooltakt_blog/26014/

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    ICTを活用することによって広がる教育活動の可能性

    スクールタクトには他にも共同閲覧やコメントといった複数の機能がありICTを活用することによって教育活動の可能性が広がります。

    共同閲覧というのはクラスメイトの意見を一覧できる機能で、これまでは授業中に一部の子供の意見しか取り上げられなかったものが、一瞬にして全員の意見を閲覧できるようになっています。

    「誰の意見が良かったと思いますか?」と投げかけると、子供たち自身が考える時間も増えますし、「〇〇さんの意見が良かったと思います」と、自分の意見を相手に伝える機会も増えるので「創造的な学び」を促します。

    また時間に余裕があるときにはコメント機能も活用して、「わかりやすい」「良いね」といったシンプルなものから、「自分の考えがよく説明されているのですごい」といったものまで、おたがいに励みになるというか伝え合うことの大切さというのを自然と学ぶことができるのではないかと思っています。

    さらに私の担当する理科ならではの利点かも知れませんが、理科の実験結果というのは個人でも班でも少しずつ違っていたりするものなんですね。なぜ結果に違いが出るのか、それを確かめたいとか比較したいといった時に、実験動画や写真を記録して、それをスクールタクト上に送って比較するといった作業がとても簡単なんです。

    これをリアルにやろうとすると準備にかなり時間がかかったり段取りもあったりするので、ICTを活用することによって時間をより有効に使えていると言えると思います。

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    デジタルとアナログそのどちらも生かした教育活動を展開

    自然環境を生かした体験学習を重視してきた本校にとって、ICTの導入に際しては「アナログからデジタルに移行して良いのか」といった意見や葛藤も多々あったのですが、この半年間でICTを取り入れた教育活動に取り組み、いま言えるのはiPadはあくまで手段のひとつであるということです。

    今はiPadを中心とした学びに力を入れてはいますが、10年後も同じようにiPadを使って勉強さえしていればそれで安心かと聞かれれば、その答えはわかりません。

    むしろ重要なのは「創造的な学び」のサイクルを回しながら考える力をどれだけ高めておけるかがこれからの時代は特に重要になってくると思っていまして、最終的な表現手段はデジタルなのかも知れないし、アナログなのかも知れない。その場その場に合わせた力の発揮の仕方というのもできなければいけないと思っているので、啓明ではデジタルとアナログそのどちらをも生かした教育活動を進めていきたいと考えています。

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    編集後記

    実践報告会で発表されたICTを活用した授業内容を拝見し、わずか半年間で到達した作り込みのレベルとは思えないほどのクリエイティブな内容に感銘を受けました。杉山先生のiPadはあくまで手段のひとつであるといったお話も印象的で、体験学習をベースにした教育活動にICTが加わった啓明の新たな学びに今後も注目です。

    取材協力

    啓明学園初等学校

    〒196-0002 東京都昭島市拝島町5-11-15   地図

    TEL:042-541-1003(代)

    FAX:042-542-5441(代)

    URL:http://www.keimei.ac.jp/

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