取材レポート

洗足学園小学校

学びが始まり、学びの土台を作る、学びの基地「Base_C」

「社会のリーダーを育成する」ことを目標として掲げている洗足学園小学校に、新しい形でその目標を支える空間が誕生。図書室を改修し、好奇心をかきたてる学びのツールや興味を持ったことを調べるメディアが備わった空間としてオープンした「Base_C」について、教頭の赤尾綾子先生にお話を聞きました。

洗足学園小学校 教頭 赤尾綾子先生のお話
学びの基地「Base_C」の誕生
インドア派も異学年の交流を楽しめる場
「好き」から「得意」へ
好奇心を刺激する多様なツール
図書室としての機能
子どもたちが使いながら進化していく場所

休み時間に「Base_C」を利用していた児童の感想

洗足学園小学校 教頭 赤尾綾子先生のお話

学びの基地「Base_C」の誕生

2002年に今の校舎ができてから20年ほど経ち、当時考えた教室と今の教育がマッチしていない部分が出てきました。今の教育に合わせて改修しようということになり、その1つが図書室だったのです。読書をする場所、情報を得たり発信したりする場所、学習施設という図書室の役割をバランスよく、しかも既成概念ではなく新しい教育にマッチした形でコンセプトを考えました。学びのベース(基地)になってほしいと考えて、いつでも入れるように扉のないオープンスペースになっています。子どもたちが興味を持てるようなものをたくさん置いて、教室の授業とは違うところで、子どもたちの興味から学びをスタートさせる場にしたいと考えました。とはいえ、本以外のものを闇雲に置いたわけではなく、STEAM教育を意識した学びのツールを多数置いています。

「Base_C」のBaseには、「学びの基地」、「学びの土台」、「学びの始まる場所」という意味が込められています。「C」の意味としては、好奇心(Curiousity)が最初にありました。子どもたちの好奇心を刺激し、好奇心に応えられる場所にしたいと思ったのです。そこから考えていくうちに、Children(子どもたち)、Can(できる)、Create(創造する)、Communication(伝達、発信)など、このスペースに込めた思いはCで始まるものが多いと気づきました。ですから、「C」にはいろいろな意味が含まれています。そのような思いが詰まっているスペースであり、私たち教員が目指す教育を実現できる場として作りました。

インドア派も異学年の交流を楽しめる場

子どもたちが最初に「Base_C」を見たときは、かなりの衝撃を受けたようです。図書室を改修することは伝えてありましたが、作業は見せないようにシークレットで進めていました。本棚や椅子が綺麗になって、絨毯を張り替えるぐらいだろうと想像していたようですが、こんなに楽しいものがたくさんあって子どもたちは非常に喜んでいます。オープンしてすぐは、毎日子どもたちが殺到していました。そのような中で、自然と異学年の子たちが一緒に遊んでいる様子が見られます。本校ではこれまでも、休み時間には外遊びをしている子たちの間で、異学年の交流がありました。一方、インドア派の子たちは、教室で遊ぶことが多かったので、遊ぶものも少なく、同じクラスの子との関わりが中心になっていました。「Base_C」ができたことにより、ここに来れば学年を問わず、いろいろなもので遊べます。インドア派の子も異学年の交流をしながら思いきり遊べるようになり、「楽しみが増えた!」と話している子も少なくありません。外遊びが好きな子は今も外で遊んでいますし、それぞれの選択肢が広がったこともよかったと思います。

「好き」から「得意」へ

デジタル地球儀に代表されるように、学んできたことがグローバルな視点でつなげられるものが揃っています。教室で学んだことが集約し、社会科や理科で学んだことがこの部屋でつながるなど、学びを深めるツールでもあるのです。iMacは卒業 した高学年も入れてほしいと言っていましたが、さっそく高学年が自分たちのiPadからデータを送って、iPadにはない機能を使って作業しています。iMacに関しては、電源ボタンだけ教えましたが、そのほかは子どもたちが自由に操作して、隣の子に聞いたり自分で試行錯誤しながら、どんどん使いこなしていっています。iPadもそうでしたが、最低限のことを教えたら、後は自分たちで探したり調べていくので、習得も早いです。興味を持ったことはとことん追求できることがこの場所のコンセプトでもあり、自分から主体的に関わっていくスタート地点として、子どもたちは活用していってくれています。

好奇心を刺激する多様なツール

デジタル地球儀の「SPHERE(スフィア)」は世界各国のライブカメラとつながっているので、ほぼリアルタイムで世界各地の情報がわかります。グローバルな視点で天気図を見たり、過去に起きた大陸移動など、地球上で起こっている現象や環境変化を動的に映し出すことが可能です。現代の課題を「見える化」し、専門機関や企業から提供されたデータをもとに、グローバルな視点を養うために活用できるコンテンツを体験することもできます。

「WizeFloor(ワイズフロア)」は、床に投影したインタラクティブな映像を使い、身体を使ったコミュニケーション活動を行う学習システムです。基本アプリをカスタマイズして、子どもたちのニーズに合わせた学習ゲームや感覚遊びを作成できます。共同で行うゲームもあり、子どもたちがゲームの問題を作ることも可能です。上級生が作った問題で下級生が遊んだり、作った問題を世界中でシェアすることもできます。

マグネット式のパーツをボードに取り付けた「Try&Rolly(トライアンドローリー)」は、試行錯誤しながら自分でコースを作って楽しむビー玉転がし遊びです。小さいサイズが市販されていますが、異学年が集まって遊べるように大きいサイズを特注しました。

「Osmo(オズモ)」は、iPadとカードゲームやパズルなどを組み合わせたデジタル学習キットです。本校には、プログラミングするためのセットと、自分のピザ屋さんを経営するゲームがあります。お釣りのやりとりが1、2年生の計算練習にもなりますし、お釣りをなしにする、お金の単位を変更するなど、子どもに合わせた設定で体験ができるので、学年ごとに違う視点で楽しめるゲームです。ここでは交代で使うようにしていますが、1クラス分は用意しているので、授業で使うこともあります。

ロボットは、テクノロジーが詰め込まれた愛らしいLOVOT(らぼっと)、ペット型ロボット「aibo」(アイボ)、ロボット掃除機「ルンバ」、そして、ヒューマノイドロボット「NAO(ナオ)」があります。低学年の子たちは、LOVOTやaiboに対して「優しくしてあげたい」という気持ちが芽生えているようです。NAOはそれらとは違い、プログラミングで動かすこともできます。プログラミングに興味を持ったら、レゴのプログラミングキットから始めて、NAOへと進んでいけたらいいなという期待もあります。

図書室としての機能

以前より本の数は減らしましたが、図書室としての機能も重要だと思っています。もともとあった本の中で、教員が言わなくても手にとってくれる本は、廊下や教室に配架しました。それらは貸し出し手続きなどもせずに、自由に手にとって読んでいいことになっています。この部屋には、数を絞り、教員が意図的に読んでほしい本や大人向けの図鑑など、「なんだろう?」と思うきっかけになるような本をたくさん置くようにしました。教員の名前を付けた本棚には、各教員が気になる本を並べています。学びが集約する場所でもあってほしいので、今学習していることと関連している本も置き、学習の進み具合に合わせて本を入れ替えています。

本棚や照明は、STEAMのA(アート)を意識したデザインやプロダクトでまとめました。本棚はこれまでの概念を覆す、座れるデザインです。壁にはブライアン・ワイルドスミスの版画を飾っていますが、同じ絵が描かれている絵本も置いてあります。テンセグリティ構造を利用して作られた、宙に浮いているように見えるオブジェや椅子などは、建築や物理学への興味につながるかもしれません。

子どもたちが使いながら進化していく場所

以前の図書室のように細かい表示をしていないので、図書委員会の子たちが課題意識を持って、探しやすくなるように考えています。6年生は、この部屋を紹介するイベントを開催するそうです。昨年度は保護者の皆様にも視聴していただけるイベントとしてオンラインで「センゾクノトビラ」を開催しましたが、今年は対面で、小さい子に体験してもらったり、自分たちの学びを発信するイベントを計画しています。

4月から「Base_C」を使い始めましたが、これで完成したとは思っていません。子どもたちが使いながら変えていくことで、進化していく場所であってほしいと思っています。例えば、椅子1つとってもただ座るだけでなく、積み重ねたり、横に倒して座ってロデオみたいなゲームをするなど、子どもたちはどんどん自分で考えて遊んでいるのです。これから先、どのように変わっていくかわからない部分もあります。子どもたちの発想は無限なので、それを支えられる場所があるということに大きな意味があると思います。

休み時間に「Base_C」を利用していた児童の感想

「LOVOTが楽しいです。『抱っこして!』と言っているように寄ってくるのがかわいい」(1年生・女子)

「地球儀にさわれたりするので、ここはとても楽しいです。ロボットのNAOとはまだ遊んだことがないので、今度遊んでみたいです」(1年生・男子)

「オズモというゲームが好きです。みんなが遊びたがっていて、とても人気があります」(2年生・男子)

「本を読むにも居心地がよくて、いい空間だと思います。座席の形が面白くて、本棚にも座れたりするのが好きです」(5年生・女子)

「LOVOTがかわいくて大好きです。私は図書委員なので、ここでは本を読むことが多いです。前の図書室は、本の場所がわかっていたから探しやすかったですが、ここはできたばかりなので、場所をわかりやすくしようと思っています。みんなが探しやすくなるようにしていきたいです」(5年生・女子)

取材協力

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