取材レポート

洗足学園小学校

卒業生とその保護者の「体験」が後輩の進路実現をサポート

全員が中学校受験をする小学校として注目されている洗足学園小学校では、希望の進路実現に向けた独自のサポートを行っています。卒業生やその保護者の協力により実現しているサポートなどについて、進路指導部長・宮田好展先生、昨年度6年生の担任だった上原征大先生と村松夏希先生にお話を聞きました。

卒業生の保護者が語る「受験体験座談会」
卒業生とその保護者が残す「受験体験記」
夏休み前には卒業生が6年生にアドバイス
教員は最後の最後まで児童に寄り添ってサポート
「全員が中学受験をする」という共通の目標

卒業生の保護者が語る「受験体験座談会」

宮田先生:本校では毎年ゴールデンウィーク前に、前年度に卒業した児童の保護者にお願いして「受験体験座談会」を行っています。この座談会は、吉田英也前校長が就任した2010年から始めた取り組みです。本校の児童は全員中学受験をするので、希望の進路を実現するという同じ目標に向かって頑張れるように、情報提供や繋がりを作る場として始めました。男子校、女子校、共学校のバランスを考えて、4名の保護者に登壇していただき、3月まで担任をしていた教員が進行役を務めます。4年生以上の保護者を対象に校内の広間で行いますが、毎年200人ぐらいの参加があり、広間がほぼいっぱいになるほどの関心の高さです。

上原先生:私は今年4月の座談会で、司会を務めました。本番は90分ですが、事前にそれぞれのご家庭でのエピソードをお聞きすると、打ち合わせが2時間以上になることもあります。どのエピソードも参考になるので、90分に収まるように選ぶのがたいへんです。打ち合わせで初めて知った、ご家庭での取り組みなどもありました。受験校の決め方や各学年でやっておけばよかったことなどは、どのご家庭にも参考になります。失敗談を話してくれる方もいるので、どこのご家庭でも失敗はあるのだと安心される方も多いです。

宮田先生:座談会には、空き時間であれば教員も参加できるので、新任の教員などは特に関心を持って耳を傾けています。それぞれのご家庭にドラマがあり、私は何度も参加していますが、同じエピソードは1つもありません。毎年参考になる話が聞けるので、教員も勉強になります。保護者の方からは本校への母校愛なども伝わり、毎年後輩のために協力してくださる方たちには本当に感謝しています。
進路指導部長 宮田好展先生

進路指導部長 宮田好展先生

卒業生とその保護者が残す「受験体験記」

宮田先生:「進路サポートルーム」では、学校案内や過去問のほか、卒業生とその保護者が残してくれた「受験体験記」を閲覧することができます。私が本校に着任したときにはすでにあったので、20年以上前から続いている取り組みです。入試が終わって登校し始めた児童に用紙を渡して、時間を見つけて書いてもらっています。A4サイズの表面に児童への質問、裏面に保護者への質問が書かれています。提出は任意ですが、児童も保護者もかなりの熱量で書いてくれるのでありがたいです。質問項目は何度かリニューアルしていますが、保護者には「その学校に決めた理由」「入試前日の過ごし方」「当日持って行ってよかったもの、持って行けばよかったもの」「当日の朝食」「面接の内容」など、児童には「試験内容」「当日役立ったもの」「苦手科目の取り組み方」「後輩へのメッセージ」などが書かれています。

村松先生:「進路サポートルーム」の壁にも、男子校、女子校、共学校、大学の付属校など、バランスを考えて掲示しています。うまくいかなかった学校についても、後輩のために一生懸命に書いてくれるのでありがたいです。面談の期間と、毎週月曜日と木曜日の放課後は「進路サポートルーム」を開放しているので、保護者も体験記を自由に閲覧できます。それ以外の日でも、連絡をいただければ個別に対応しています。受験日が近づくと閲覧が増えますし、面接がある学校の体験記への関心は特に高いです。年末に向けて駆け込みで閲覧される時期になりますが、12月の内部入試に関する体験談もあるので、6年生の女子にとっても大きな心の支えになっています。

上原先生:子どもたちも、先輩からのアドバイスなどを参考にしています。名前は書かれていませんが、回答を見ながら自分に近いタイプの児童を探しているようです。例えば、「全然緊張しなかった」と書く人もいれば、「緊張するから○○を準備した」と書く人もいます。まずは自分の行きたい学校のファイルを見て、その中からコメントで自分に近い人を探して、それを熟読する児童が多いです。卒業生や保護者の方たちが残してくれた体験記には、体験した人しかわからないことがたくさん書かれています。私たち教員からは、できないアドバイスも多いです。「進路サポートルーム」にある過去問は、卒業生が使い終わったものを寄付してくれたもので、毎年、次の学年へと受け継がれています。

夏休み前には卒業生が6年生にアドバイス

宮田先生:夏休み前には、卒業生から直接アドバイスをもらう機会も用意しています。以前は、受験前日の1月31日に6年生だけを集めて激励会を行っていました。卒業生からメッセージをもらっていたのですが、直前よりもっと前の方がより役立つアドバイスがもらえると考えて、2016年からは「教えてセンパイ!」と題して夏休み前に行っています。登壇する卒業生からの子ども目線でのアドバイスを一語一句聞き逃さないように、6年生はメモを取りながら耳を傾けています。教員や親よりも、成功している先輩からの言葉の方が心に響くようです。中学校はちょうど期末試験と重なる時期なのですが、重なってしまった場合も断るのではなく、事前収録して当日にその動画を流してほしいと言ってきます。本校では「たてわり活動」を行っているので、先輩にしてもらったことへの感謝や後輩の力になりたいという思いが、そういった行動につながっているのだと思います。

村松先生:6年生に卒業生からのアドバイスで印象に残ったことを聞いてみると、「合格した先輩たちにも不得意な教科があったこと」「夏休み中にみんな頑張るから、夏休み明けは成績が下がり気味になるのが基本なので、キープできれば大丈夫という話」「息抜きをするのも大切と聞いて、息抜きをしてもいいんだと思った」「問題を解いても、解きっぱなしでは意味がないから、しっかりとやり直しをすることが大切だという話」など、子どもたちなりに感じとっていました。本校はプレゼンが得意な児童が多いので、自分でスライドを作ってきてくれる卒業生も多いです。

宮田先生:このような機会でなくても、卒業生が遊びに来ることも多く、その際は在校生たちが自然に集まってきます。制服姿を見ることも憧れの気持ちにつながって、よい刺激になっているのでしょう。二十歳までは、夏に同窓会を行っていますが、中1と高2の卒業生には学校の様子に関するアンケートに協力してもらっています。中学校や高校の中間・期末テストの印象、学校の雰囲気、おすすめの行事、入部した部活動と入部した理由、系列高校・大学に進学する人の割合など、通ってみて感じたことを答えてくれています。6年生にとっては少し先の学校生活ですが、6年生の廊下に掲示しておくとそれぞれ関心を持って見ているようです。
村松夏希先生

村松夏希先生

教員は最後の最後まで児童に寄り添ってサポート

上原先生:秋から行う保護者との進路指導の面談前には、その児童を知っている進路指導部の教員たちで情報を共有しておきます。本校では教科担当制をとっており、1人の児童を複数の教員が見ているので、担任だけでは気づかない部分を他の教員がフォローできる環境です。私たち教員は、学力だけでなく、性格も考慮して、それぞれが希望の進路を実現できるようにサポートしていきます。例えば、事前に提出された出願パターンでよいか、児童の性格なども考慮して教員たちで事前に相談しておきます。いきなり2月の本番でも大丈夫な児童もいますが、1月受験で助走をつけてからの方が力を発揮できる児童もいるのです。それぞれが持っている力をよい形で発揮できるように、様々な角度からサポートしていきます。

村松先生:前年度のデータと比較したときに、今の志望校だと難しいと判断した場合は、1日目の受験校を変更して、初日に合格してから翌日以降に本命にチャレンジする出願パターンを提案することもあります。その結果、初日の合格が自信につながって、順調にステップアップして合格できた児童もいました。12月の内部入試で不合格となってしまった女子の場合も、1月受験で合格しておいて2月に本命に臨むことでよい結果を出せることもあります。それぞれのご家庭の方針も考慮しながら、よい流れで受験できるようにサポートしています。受験本番を迎えた後は、不合格が続いてしまった場合などに精神的なダメージをフォローすることも大切です。2月1日から7日ぐらいまでは、保護者が連絡しやすいように、6年生の担任は学校の携帯電話を持って待機しています。次にどこを受験するか保護者と相談したり、弱気になってしまった児童と話をして励ましたり、毎年いろいろなドラマがあります。

上原先生:複数の学校に合格した場合に、どこに進学するか悩んでいる児童からの相談に電話で対応することもあります。最終的に決めるのはご家庭なのでどの学校がいいとは明言しませんが、教員と話すことで自分の気持ちがどちらに傾いているか見えてくるようです。
上原征大先生

上原征大先生

「全員が中学受験をする」という共通の目標

上原先生:女子は12月に内部入試がありますが、合格者は合格の権利を保有したまま他校の受験ができるので、ほぼ全員が外部受験をします。ですから、全体としての進路指導は男女変わりません。12月にクラスの半分が先に受験を経験するので、男子にとってもその緊張感がよい刺激になっているようです。どの教科も12月末には学ぶべき範囲を終えているので、6年生の3学期はプラスアルファの内容となっています。1月は通常授業のほかに、体育実技の練習と面接の練習を希望者に行っています。入試に体育実技がある学校は、卒業生が残してくれた「受験体験記」を参考にしたり、体育科の教員がヒアリングをした内容から想定問題を考えます。面接練習は校長が面接官となって、校長室に入るところから作法なども学んで、校長からのフィードバックもあります。体育実技や面接は、練習してから本番に臨むとやはり心強いようです。

村松先生:全員が受験するという共通の目標があるので、教室に受験までのカウントダウンをする日めくりを作っています。100日前に1人1~2枚を担当し、その日を想像してメッセージを書いています。励ましのメッセージを書く児童や練習問題を書く児童などもいて、同じ目標を目に見える形で共有することが受験へのモチベーションにもつながっているようです。

取材協力

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