取材レポート

菅生学園初等学校

学校周辺の自然環境を活用し、 四季折々の体験学習に取り組む“ゆたか”の時間

豊かな自然環境に恵まれた「学びの城 菅生学園初等学校」。2006年の開校以来「自然が、教科書だ!」を建学の精神に掲げ、児童ひとり一人の豊かな感性と知性を育んでいます。2014年には本校の特色ある教育活動としての“ゆたか”の時間がはじまり、学校周辺の自然環境を活かした独自の体験学習が、子供たちの学ぶ意欲に変化をもたらしています。今回の取材では、6年生の“ゆたか”の時間に参加して、取り組みの実際と菅生学園初等学校が考える“ゆたか”の時間のねらいについてお話を伺いました。

菅生学園初等学校 教諭 渡邊岳紀先生のお話
学校周辺の自然環境を活かした体験学習“ゆたか“の時間
卒業研究の発表会に向けてパックテストを使った鯉川の水質調査
“ゆたか”の時間で体験したことを教科やより深い学びにつなげる
教員も一緒になって楽しみながら学べる雰囲気を醸成した“ゆたか”の時間

“ゆたか”の時間について感想を聞かせてください
今日の感想を聞かせてください。
これまで取り組んできた“ゆたか”の時間で楽しかったことは?
お米づくりを経験して変わったことは?

渡邊岳紀先生

渡邊岳紀先生

菅生学園初等学校 教諭 渡邊岳紀先生のお話

学校周辺の自然環境を活かした体験学習“ゆたか“の時間

渡邊先生:
本校の特色ある教育活動として“ゆたか”の時間がはじまったのは、2014年のことです。低学年は生活科、3年生以上は総合的な学習の時間を使って学校周辺の自然環境を活かした独自の体験学習に取り組んでいます。 大きなテーマとしては「山」「川」「土」という3つの柱を設け、低・中・高学年それぞれの発達段階に応じた四季折々の活動を毎週行っています。
今日予定されている6年生の“ゆたか”の時間では、歩いて10分ほどの場所を流れる鯉川(こいかわ)の水質調査を行うのですが、6年間の学びの集大成として行われる卒業研究の発表会へと向けた取り組みでもあります。
5年生になると環境学習に取り組むのですが、近隣の里山の現状や課題について、実際に近くの山へ散策に行ったり、鯉川の水質調査をしたりするなかで、興味や関心のあることについてひとりひとりがテーマ性をもった研究を進めています。

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卒業研究の発表会に向けてパックテストを使った鯉川の水質調査

邊先生:
今日の水質調査では、研究や業務用としても使われている水質検査キットのパックテストを使って、「亜硝酸態窒素」「硝酸態窒素」「アンモニウム態窒素」「りん酸態りん」「COD(Chemical Oxygen Demand)」の5項目について、200mほど離れた2地点で調査を行いその違いを調べる予定です。
CODの値が大きいほど水の汚れとなる有機物が多く含まれていることが分かり、近くに畑があるところでは肥料が川に流れ出るため、他の項目でも違いが出てくると思われます。
研究発表のテーマは鯉川の水質調査に限らず、人が手を入れないと荒れ放題になってしまう里山をどうしたら良いかということについて考えた児童もいますし、周辺の公共下水道の整備状況が100%ではないことを前提に、鯉川の水質を浄化させるためにはどんな方法が考えられるかや、ホタルがもっとたくさん飛ぶようになるにはどうすれば良いかなどホタルの生態を研究している児童もいます。
本校ではICTを活用した取り組みもすでに進められていて、これまでの研究の内容や今日の水質調査の結果もロイロノートにまとめる予定ですが、卒業研究の発表会でもロイロノートで作成したプレゼン資料を使ってみんなの前で発表します。

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“ゆたか”の時間で体験したことを教科やより深い学びにつなげる

渡邊先生:
“ゆたか”の時間を通じて体験したことは教科やその後の学びにもつなげられるよう意識しています。たとえば図工で生き物の写生をしたり、収穫した野菜は家庭科の調理実習で食べたり、校内には「ゆたかルーム」と名付けられた専用の部屋もあります。
標本や剥製、水槽などを設置して“ゆたか”の時間でつかまえた生き物の飼育、展示などをしているのですが、なかには絶滅危惧種に指定されている「ギバチ」や「ホトケドジョウ」といった生き物もいて、特に飼育の難しいものは「ゆたかルーム」で飼育するようにしています。
「ゆたか委員会」という組織が生徒会の委員会活動のひとつに位置づけられているのも特色ですが、今は4年生から6年生までの計7人と教員が協力して「ゆたかルーム」の管理をしています。
これは余談ですが、“ゆたか”の時間がきっかけで毎週日曜日になるとお父さんを連れて鯉川に遊びに来るようになった女の子がいます。ギバチも何度か見つけたことがあるようで、抵抗感無く虫や生き物を捕まえられるのもそうですし、絶滅危惧種の希少な生き物にも出会える体験というのは興味の範囲が広がります。

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教員も一緒になって楽しみながら学べる雰囲気を醸成した“ゆたか”の時間

渡邊先生:
「自然が、教科書だ!」を建学の精神に掲げる本校の特色ある取り組みとしてはじめた“ゆたか”の時間ですが、これまでの取り組みを振り返って感じることは、教室内で行う座学は座学でもちろん大切ですが、子供たちと一緒に自然の中に出かけて行って、私たち教員も一緒になって楽しみながら学べるという雰囲気を学校全体でつくり出せたことが一番ですね。
来年で6年目を迎え、“ゆたか”の時間をひとつの研究としてその成果を外部に発信していこうと考えています。
また将来的には、学校の敷地内でホタルを飛ばせたらいいなと思っています。校内にはすでに畑もミニ田んぼもありますし、ビオトープを作ることで里山の景色を再現できるのではと考えています。

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“ゆたか”の時間について感想を聞かせてください

今日の感想を聞かせてください。

Nくん:
やっぱり楽しいです。鯉川の水質が分かったことと、生き物もたくさん捕れました。
Iさん:
水質検査をしたらちょっと汚いところもあったので、どうにかしていきたいと思いました。ゴミを捨てないようにするとか、洗剤の使い過ぎに注意するとか、気をつけたいなと思いました。

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これまで取り組んできた“ゆたか”の時間で楽しかったことは?

Nくん:
5年生のときにやった稲の栽培です。近所に住んでいる野口さんや担任の渡邊先生に教えてもらいました。田植えははじめての体験で、転びはしなかったけど足がどんどん持っていかれてしまうので移動するのが大変でした。
Iさん:
私も米づくりです。稲を作るときに最初は苗を育てるところからはじめて、最後は食しました。脱穀のときに千歯こきでやったんですけどコツが必要で、昔の人はこうやっていたんだなと感じました。

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お米づくりを経験して変わったことは?

Nくん:
お米づくりには八十八の苦労があって、お米を食べるときにそれを感じるようになりました。
Iさん:
一粒のお米には 七人の神様がいるって聞いて、お米一粒ひとつぶを味わって食べるようになりました。

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“ゆたか”の時間で体験したことは、ご家庭でもよく話題にのぼるとのこと。児童にとって、印象深い学びができている証しと言えるでしょう。環境に対する意識や生きた知識を身につけられるだけでなく、自然の中で生き生きと学校生活を楽しんでいる様子が伝わってくることは、保護者にとってとても嬉しいこと。今後、“ゆたか”の時間がどのように進化していくのか、ますます期待が高まります。

取材協力

菅生学園初等学校

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