取材レポート

利晶学園小学校(旧 はつしば学園小学校)

はつしば学園から利晶学園へ校名を変更。25年後の未来につながる学びを届ける。

室町時代から日本の文化や生産の中心地であり、世界への窓口としての役割を担ってきた街・堺に位置する大阪初芝学園。この誇り高い街から世界に新しい教育を発信していきたい、そして新しい教育を通して、堺をより多くの人に住みたいと思ってもらえる街にしたい。その2つの思いを込めて、同学園は2025年4月から名称を「利晶学園」に変更しました。
川﨑昭治副理事長は新学園名について「『利晶』の由来は、堺が生んだ文化人・千利休と与謝野晶子にあります。堺市もこの2人を称える文化施設『さかい利晶の杜』を開設するなど、文化的素養を育てることに力を入れています。本学園も『利晶』を冠することで、堺を代表する教育と文化の中心的な位置を担っていきたいと思っています」と語ります。川﨑副理事長と同学園小学校・江川順一校長に、同学園が目指す教育について話してもらいました。

利晶学園 川﨑昭治副理事長のお話
新しい利晶学園で目指す教育
新しい伝統を築き、自分の意見を堂々と言える人を育てる

利晶学園小学校 校長 江川順一先生のお話
「夢と高い志、挑戦、貢献、未来創造」を理念に掲げる
利晶学園小の学びの6本柱
大阪の企業と連携した教育を進める
ミッション遂行型海外修学旅行
楽しいから学校に行きたくなる!「WAKU DOKI」PROJECT
立命館大学合格の至近ルート

まとめ

利晶学園 川﨑昭治副理事長のお話

新しい利晶学園で目指す教育

最近の朝のテレビで大谷翔平や佐々木朗希などのメジャーリーガーを見ない日はありません。一方、日本のプロ野球は全然やっていません。20年30年前には、このような風景はあり得ませんでした。時代が変わりつつある今、教育も変わる必要があります。

今までの日本の教育では「皆で仲良く」が求められていました。私はこの言葉が嫌いです。もちろん一人ひとりが、自分自身がどう生きるかを考えながら進んでいく時に、皆が揃う瞬間があっていいでしょう。しかし、それが1番良いと思ってしまうと、均質を追求するあまり、才能を潰してしまう、遅れた子を見捨ててしまうことが起こりかねません。

ですから、利晶学園小学校では、皆で一緒に同じことをしようとするのではなく、子どもたちがそれぞれの役割と能力に応じて、自分が目指すべきハードルは何かを探り、自分で自分のハードルを設定し、それを飛び越えていくことに達成感を持たせていく教育を目指します。そのためには、発達も能力も違う一人ひとりの子どもたちをきっちり見ていくことが必要。それができる学校作りをします。
利晶学園 川﨑昭治副理事長

利晶学園 川﨑昭治副理事長

新しい伝統を築き、自分の意見を堂々と言える人を育てる

また日本では、シーンとした教室で先生が話している内容を子どもたちが静かに聞いているのが一番良い授業だと思われがちです。しかし、実はそのような受け身の状態では、子どもたちの脳はフル回転しません。脳を活性化させるのに必要なのはアウトプット。先生が話したことを自分の中で咀嚼して、それを自分の意見として言葉にして出す。このことが脳を活性化させ、賢い子を作っていくのです。

幼少期にたくさん話し自分の意見を言う、できるだけアウトプットすることがとても重要です。それが今の日本の学校教育を変えていく大きな道だと考え、利晶学園小学校ではShow & Tellを始めました。これは家から自分の好きなものを持ってきて、それについて皆の前で発表する活動のこと。子どもたちが自分の考えを探り、言葉にまとめアウトプットする経験を積むよい機会となります。Show &Tellを利晶学園小学校の新しい伝統にしていこうと考えています。

我々が生み出す新しい伝統や文化を通して、子どもたちが世界に出たときに自分の意見を堂々と言える人に育っていってほしいと願っています。
Show & Tell

Show & Tell

利晶学園小学校 校長 江川順一先生のお話

「夢と高い志、挑戦、貢献、未来創造」を理念に掲げる

本学園の理念は「夢と高い志、挑戦、未来創造」です。そこに「貢献」をプラスアルファしたものが小学校のスクールミッション。私はこれまで教育に携わってきて、「貢献」はとても大事だと感じています。自分のためでなく、他人のためにすることが自分を高めることにもつながります。小学校校長を務めて2年間で、「貢献」が必要だと感じる場面を何度も見てきました。人や社会に「貢献」する心によって未来を創造する人材の育成を目指すこと。これを教育のど真ん中に据えて進めていきます。

また2026年度の入試広報では「2050 POWER PRIDE」をスローガンに掲げています。2050年は、今の5歳児がちょうど30歳になる年。2022年に経済産業省が発表した「未来人材ビジョン」を読むと、30歳は社会での立ち位置を決める年齢だ、ということがわかります。30歳で自己実現することを目指して、そこから逆算して小学校を決めてはどうでしょうか、という提案を、この「2050 POWER PRIDE」というスローガンに込めています。

「未来人材ビジョン」には、日本のこれからの若者には、次の4つの力が求められているとも書いてあります。「0から1を生み出す力」「1つのことを掘り下げていく姿勢」「グローバルな社会課題を解決する意欲」「多様性を受容し、他者と協働する力」。これらを育む学びを利晶学園小学校において、強力に推進していきます。
校長 江川順一先生

校長 江川順一先生

「2050 POWER PRIDE」

「2050 POWER PRIDE」

利晶学園小の学びの6本柱

利晶学園小学校の学びには、6つの柱があります。

1.刺激のシャワーで「原石」を探し、磨く

子どもとは一人ひとりが唯一無二の存在で、磨いたらピカピカに光るダイヤモンドになるかもしれない原石を内に秘めている存在、と私は考えています。その原石を探して見つけて磨くには夢中になれるものが必要です。では、夢中になれるものを見つけるには何が必要でしょうか? それは本物に触れ、「うわ、こんな風になっているんだ! すごいな!」と感動する体験、つまり刺激のシャワーです。

利晶学園小学校では学校教育のすべてのシーンで刺激のシャワーを浴びせていきます。行事であれば、宿泊行事や運動会、音楽発表会、図工作品展など。外部人材による特別出張授業も、2024年度は13本を実施しました。また、原石を小学校だけでなく、中学校以降も磨き続けていくためには基礎学力も必要です。3~5年生では2024年度から英語検定受験を全員必須とした他、2025年度からは100マス計算(1~4年)、漢字検定(全学年)などに、数値目標を掲げて取り組んでいきます。

2.グループ・ペア学習

これは担任が子どもたちを十分に観察し、時間をかけて構築した基本のペアでいろいろな学習活動にあたる本校独自の学習スタイルのこと。同じ2人で「話すこと」「聴くこと」を交互に繰り返すことで、主張するだけでなく、相手の話をしっかり聴けるようになります。このことで学びが深まっただけでなく、児童間のトラブルも少なくなりました。2024年度からは、1年から6年でグループをペアを組むレインボー活動も始めました。異年齢での縦割り活動を充実させることで、相互尊重の気持ちをより育んでいきます。
運動会

運動会

グループ・ペア学習

グループ・ペア学習

3.英語教育

英語教育には以前より力を入れており、Grape SEED・English CODE・Weblio STUDYなど様々な先進的な学びを導入してきました。2024年度に新たに始めたのが、留学生たちと共に過ごすワールド・ウィークです。このプログラムの目的は留学生たちと触れ合うことで、他国の文化や言語、多様な考え方への理解を深め、海外への興味・関心を高めること。月~金曜の5日間、全校で取り組みました。留学生たちと英語でいろいろなアクティビティを行っている子どもたちは、とても楽しそうでしたね。

4.理科教育

「利晶サイエンス」と名付け、自らの問いを探究する子どもを育てることを目標とする教育を展開します。まず特徴的なのが、1・2年生の生活科にも実験を数多く取り入れること。実験や体験を通し、自然の事物・現象に興味を持ち、科学的な見方や考え方ができるよう導きます。

次に、探究心に刺激を与え続けるべく、SDGsをテーマにさまざまな外部講師による講演会を実施します。2024年度は立命館大学宇宙地球探査研究センターの佐伯和人教授を招いて、6年生を対象にお話しいただきました。テーマは「月を港に、火星に都市を作る時代は、君たちの時代だ!」。講演後、子どもたちはとても喜んで「火星に行くぞ!」と口々に叫んでいました。この「根拠のない自信」は、教育にとって大事なもの。6年生の中から火星に行く子が出るとうれしいですね。
World Week

World Week

利晶サイエンス

利晶サイエンス

5.テクノロジー学習

同じ敷地内に利晶学園大阪立命館高等学校があります。文部科学省指定のスーパーサイエンススクール(SSH)であることに加え、立命館大学理工学部の協力もあり、同校には3Dプリンタやデジタルミシンなどの先端の機器がそろっています。それらを小学校でも活用して学びを進めていきます。

6.日本伝統文化理解

外国人とのコミュニケーションには自国の伝統文化に対する深い理解が必須、と本校は考え、以前より3~6年生の総合の授業で筝曲を必修としていました。それに加え2024年度から1・2年生では茶道、3・4年生では華道も必修化しました。「利晶」の名に基づき、日本文化の礎である筝曲・茶道・華道に親しんでいきます。
テクノロジー教育

テクノロジー教育

箏曲

箏曲

大阪の企業と連携した教育を進める

利晶学園小学校になるにあたり、新たな取り組みにもどんどん挑戦していきます。まずは企業連携。文部科学省の現行学習指導要領の中に「学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること」とあります。これを本校流に解釈すると、「大阪にある企業や老舗と連携を図ることによって大阪からグローバル人材を輩出する」「大阪の歴史に根差した子どもを育てる」に行き着きました。

2024年度は大阪・八尾市に本社がある子ども用品メーカー「ミキハウス」と大阪・門真市に本社がある「タイガー魔法瓶」と連携し、特別授業などを実施しました。今は、老舗和菓子店や洋菓子店と協業できないか模索中です。具体的には、校内の畑で子どもたちが育てた野菜や卒業生が営むブドウ園のブドウなどを使ってスイーツを作り、販売できないかと考えています。小学生ではあまり見ない取り組みですが、積極的に挑戦していきます。

ミッション遂行型海外修学旅行

2024年度の5年生修学旅行「ミッション遂行型海外修学旅行」を、オーストラリア・クイーンズランド州政府観光局の全面支援のもと、実施しました。なぜ「ミッション遂行型海外旅行」と呼ぶのか。それは、子どもたち一人ひとりが同観光局から自然文化大使に任命され、帰国後に自分たちの出身幼稚園やインターナショナルスクールでクイーンズランド州の自然や文化、人のすばらしさをプレゼンする任務を受けたからです。

現地では1組3~4人でのファームステイ、現地のWhitfield State Schoolとの交流、グリーン島自然探検などを行いました。ファームステイでは牛の乳しぼりなどをさせてもらいました。日本の生活にはなかなかない体験をさせてもらった様子を、子どもたちは本当に楽しそうに私に話してくれました。Whitfield State Schoolは敷地の中に森がありました。そんなオーストラリアの素晴らしい自然を感じられる場所で、子どもたちは現地校のバディと一緒にブーメランに絵付けをしたり、ファースト・ネーションズの芸術に触れたりしました。多様性を肌で感じられる時間となったのではないかと思います。
ミッション遂行型海外修学旅行

ミッション遂行型海外修学旅行

楽しいから学校に行きたくなる!「WAKU DOKI」PROJECT

私は、学校はワクワクドキドキする場所でなくてはいけないと思っています。でなければ、行きたくなくなってしまいますからね。本校もワクワクドキドキする場所でありたい、と立ち上げたのが「WAKU DOKI」PROJECT。このプロジェクトでは、ミキハウスにいろいろな面でサポートをしていただきました。

まずはコラボランドセル&サブバッグ。ミキハウスと話し合って、本校オリジナルのものを作ってもらいました。アメリカのインビスタ社が製造するコーデュラ・ファブリック素材を使っており、ナイロンの7倍の強度を持ち、とても軽いのが特長です。

次に、ミキハウスルーム&ライブラリーを2号館エントランスに開設しました。ミキハウスカラーの特注スツールやエッグチェアを備え、目にするだけで元気になるような空間となっています。ライブラリーにはミキハウスが発行している宮沢賢治の絵本を寄贈していただきました。休み時間には、エッグチェアにちょこんと座ってライブラリーの絵本を読む子どもたちの姿が見られます。つい先日、保護者から寄贈していただいたアップライトピアノを、ここに設置しました。ストリートピアノのように、子どもたちに自由に弾いてもらおうと思っています。

また2024年10月には、ミキハウス所属のレスリング金メダリスト・文田健一郎選手と樋口黎選手による講演会も実施。トークセッションの他、4~6年生の筋肉自慢の子どもたちとの腕相撲対決や、筋肉自慢の教員とのレスリング対決なども開催し、非常に盛り上がりました。子どもたちの感想文を見ていると、両選手からたくさんの勇気をもらったことがうかがえ、とてもうれしかったですね。このように、子どもたちがワクワクドキドキできる仕掛けを、これからもどんどん作っていきます。
「WAKU DOKI」PROJECT

「WAKU DOKI」PROJECT

立命館大学合格の至近ルート

本校から利晶学園大阪立命館中学校・高等学校を経由し、立命館大学へと進学するルートがあります。

初芝立命館中学校
・USコース
・立命館コース(以下、Rコース)
・アドバンストαコース(以下、Aαコース)
・アドバンストβコース(以下、Aβコース)

初芝立命館高校
・アドバンストSPコース(α・β)
・立命館コース(以下、Rコース)
・スーペリアコース(2026年からα・β)
・体育科

と中高それぞれ複数のコース制で、基本的に立命館大学に進学するためには、中学校でRとAαコースに、高校ではRコースに在籍する必要があります。現6年生では78.85%の児童が中学校のAαコースかRコースの進学基準を満たしています。つまり本校卒業生のほぼ8割に立命館進学ルートが開けているということです。

次に中学校から高校へのRコースの進学率について見ていきます。現中3では、Aαコースの74%(40名)とRコースの80%(45名)が、高校Rコースに進学予定です。βコースの生徒も25%(7名)が高校Rコースへのコースアップを果たしています。もし、中学進学時にRコース・Aαコースに入れなかったとしても、3年間がんばればリベンジが可能ということです。

最後に、高校から立命館大学への進学では、現大学1回生になる学年では、高校Rコースの立命館大学への進学率は97.8%。例年非常に高い進学率を誇っています。もし、大阪にお住まいの方で、将来立命館大学への進学を考えていらっしゃるなら、本校であれば内部進学できるルートがありますので、ぜひご検討ください。

まとめ

利晶学園小学校では、学園名の変更に伴い、校章も新しくなります。緑のかわいらしいRモチーフの新校章をデザインしたのは図工科の先生だとか。新しい校章に込められた意味について、江川校長は次のように話します。

「Rは生命感と躍動感を表現すると共に、子どもたちが自らの夢を叶えて万歳する姿をイメージして描きました。また、Rの中心に配された円環は無限と永遠の象徴で、無限の可能性を持って未来を創造する人になる子どもたちを、永遠に信じ続ける教職員の思いが託されています」。

この言葉にも表されるように、今日のお二人の話からは、子どもたちの未来への熱い思いがたくさん伝わってきました。利晶学園小学校が展開する新しい教育を受けた子どもたちの25年後が楽しみでなりません。

取材協力

利晶学園小学校(旧 はつしば学園小学校)

〒599-8125 大阪府堺市東区西野194-1   地図

TEL:072-235-6300

FAX:072-235-6302

URL:https://www.hatsushiba.ed.jp/primary/

利晶学園小学校(旧 はつしば学園小学校)