取材レポート

関西大学初等部

関西大学併設校の強みを生かした、日本初の取り組みが続々。海外大学へのルートも新設

関西大学唯一の小学校として、2010年に開校した関西大学初等部。2024年度入試A日程では、定員60名に対し158名が出願。約2.6倍という大阪で最も高い出願倍率を記録しました。この人気の秘密とは? 校長の今田雅彦先生に、2024年度の新たな取り組みをはじめ、関西大学初等部の魅力について話を伺いました。

関西大学初等部 校長 今田雅彦先生のお話
プロにも認められた合唱部の美しい歌声
全員の感想が「楽しかった!」。6泊7日のニュージーランド修学旅行
英語をひとつのツールとして使いこなすためのきめ細やかな学習
協定海外大学へ進学できる体制を構築
初中高合同の英語授業研究会を開催
日本の教育機関で初めて、授業時の生成AI使用のガイドラインを作成
取材を終えて
校長 今田雅彦先生

校長 今田雅彦先生

関西大学初等部 校長 今田雅彦先生のお話

プロにも認められた合唱部の美しい歌声

NHK全国学校音楽コンクールの大阪府コンクールで例年金賞を受賞している関西大学初等部の合唱部。その美しい歌声と合唱に向かう真摯な姿勢が高く評価され、シンガーソングライター・半﨑美子さんの2025年3月発売のCD『地球へ〜合唱 ver.』のレコーディングに参加することになりました。『地球へ』は2024年より小学校の音楽の教科書(教育芸術社)に掲載され、全国各地の学校で合唱曲として歌われている曲です。

「レコーディングの様子を写したYouTube(※)を見ると、どの子もとてもよい表情で歌っています。この経験を通して、歌声はさらに透明感を増し、演奏も一層洗練されたと感じています。CDに収録された本校合唱部が歌う『地球へ』が、今後多くの小学校で合唱の見本として聞かれることになるかもしれません」と今田校長は嬉しそうに話します。

合唱部は、3月13日にザ・シンフォニーホール(大阪)で開催された半﨑美子さんのコンサートにも招かれ、ステージで歌を披露したそうです。小学生がプロのレコーディングやコンサートに参加する機会は、めったにありません。これも長年にわたり、合唱部がひたむきにがんばってきた証。このような他校では得難い経験は、子どもたちにたくさんの成長を与えてくれたことでしょう。

※半﨑美子「地球へ〜合唱ver.〜」レコーディングドキュメンタリー映像
https://youtu.be/jO1ja0k0BVA?si=aXfHWUI8Xe-8ZJ0G
音楽コンクール

音楽コンクール

全員の感想が「楽しかった!」。6泊7日のニュージーランド修学旅行

同校ではコロナ禍の影響で休止していた海外修学旅行を2024年度に再開。6年生が6泊7日でニュージーランドを訪れました。現地小学校の子どもたちのお宅にホームステイをし、一緒に授業を受けたり、マオリの文化に触れたり、グループで買い物に行ったり、と様々な経験ができる修学旅行になった、と今田校長は説明します。

「今回、現地に行って一緒に授業を受けて、英語でやりとりすることで深い交流ができ、最後の別れでは多くの子どもたちが、涙していました。コロナ禍ではオンラインで海外交流はしましたが、やはり英語を話している実感は薄かったのだと、その姿を見て気づきましたね」

帰ってきてから子どもたちに感想を聞くと、『片言の英語でも結構通じる』『しゃべれなくてもコミュニケーションが取れた』と話し、全員が『とても楽しかった』と話してくれたそうです。コロナ禍前の海外修学旅行では、コミュニケーションがうまく取れなくて残念だったと話す子も一定数いたため、今回は全員が楽しめた事実に、今田校長は驚いたといいます。

「現地での活動の様子を見てもコミュニケーション力がとてもついてきたと感じました。これも、日常的にいろいろな活動に取り組んできた結果でしょう。コミュニケーション力を育む環境が本校に根付いてきたという手ごたえのある修学旅行となりました」
ニュージーランド修学旅行

ニュージーランド修学旅行

ニュージーランド修学旅行

ニュージーランド修学旅行

英語をひとつのツールとして使いこなすためのきめ細やかな学習

ニュージーランド修学旅行で、子どもたちが現地のバディと意思疎通を図れた要因には、コミュニケーション力と共に確かな英語力が培えていたことも挙げられるでしょう。

同校では、全学年で英語活動を実施。1・2年生では毎日15分のモジュール学習という形で行います。ネイティブ教員が担当するモジュール学習は、話す・聞く・歌うなどの楽しい英語活動を中心に、基礎的な単語のライティングも取り入れた構成となっています。

「最近では、新入生の約3分の1がインターナショナルスクール出身です。英語が得意な子たちが身近にいることは、英語をまったくしていなかった子どもたちにとって大きな刺激となる一方で、英語をしてきた子たちにとっても英語を続けるモチベーションになります」

3・4年生では週3時間、5・6年生では週4時間の授業を設定。本格的な授業が始まる3年生では習熟度別授業を導入し、10人という少人数でそれぞれの英語力に合わせた学びを進める体制を整えています。

「3年生以上ではシャドウイングで英語耳を鍛える他、週1時間はプロモーションビデオを制作するなどの活動主体のプロジェクト学習、即興で英語を使う機会も多く設けるなど、多彩な英語学習を展開します。自分と英語で会話するアプリや英語の発音をAIが判定してくれる『ELSA』など、ICTも積極的に活用しています」

また教科書もOxford『Everybody UP』(1・2年)やNational Geographic『Explore Our World』(3・4年)、『LOOK』(5・6年)などのオールイングリッシュのものを使用し、5年生で中1、6年生で中2前半の内容を学びます。

6年間の英語教育を通して、卒業時に約半数程度が英検3級を取得。約15%程度が準2級・2級、なかには準1級を取得する子もいます。ここ数年は英検だけでなく、TOEFL Primaryにも積極的に挑戦しているそうです。

このように私学ならではの充実した英語教育を同校では進めています。しかし、今田校長は「英語教育にも力を入れていますが、英語を話せたらよいだけであれば、英会話教室で済む話です」と述べ、こう続けます。

「あくまで英語はひとつのツールに過ぎません。本校は一条校として確かな学力を培い、思考力や人間力を高める幅広い取り組みをおこなった上で、英語教育にも力を入れています。これも『学の実化(学んだことを実際の生活や生き方に活かす)』を教育理念に掲げる関西大学の併設校だからこそです」
英語 モジュール学習

英語 モジュール学習

協定海外大学へ進学できる体制を構築

2024年、高等部から2027年度の卒業生より協定する海外大学への進学も選択できるようになることが発表されました。

今田校長は高等部の新たな取り組みについて「もちろん、日本全国どの学校からでも、個人が努力すれば海外のどの大学へも進学できます。しかし、まったくゼロの状態で海外大学に挑戦しようとするとハードルが高い面もあるでしょう。高等部では海外大学と協定を結び、関西大学の内部進学と同様に海外進学を選択肢のひとつとして示せるようなります。このことで、海外大学へ進学する本校卒業生も増えるかもしれませんね」と話し、笑顔を見せます。

高等部には1学年4クラスの中に、国公立大学や医歯薬系学部を目指すクラスが1つあり、以前より外部受験への手厚いサポートが評判です。それに加え、新たに海外大学への選択肢も増え、より一層、子どもたちの多様な進路を実現する形が整いつつあります。

初中高合同の英語授業研究会を開催

高槻ミューズキャンパスには、初等部の他にも中等部・高等部、大学の社会安全学部があります。「このように小学校から大学までが同じ建物内にあるのは日本でもここだけです」と今田校長。

物理的に近いだけでなく、2023年度には大学の社会安全学部の力を借りて、防災に関する書籍を出版するなど、学校間で連携し、さまざまな取り組みを行っています。その連携をさらに進めようと、2024年度には新たに2つの取り組みが行われました。

まず一つ目が初中高合同の英語授業研究会。

「高槻ミューズキャンパス 初中高をつなぐ英語考動力育成のためのカリキュラム開発」というテーマのもと、初中高の各1クラスが『話す』に焦点をあてた英語授業を公開。初等部では、日本では当たり前のように使う『がんばれ!』を英語で言い換えると、いろいろな表現の仕方があることを学ぶ授業を行ったそうです。

「初等部から高等部までが一緒の方向を向いて学びを進めていることが伝わる発表となったと思います。小学校から大学まで多くの先生が見学してくださり、『生徒たちの成長と、英語の実力の伸びを拝見することができた。一貫校ならではの指導の成果だと感じた』『小中高の全ての授業が、一度に一貫して見られてとても勉強になった』などの感想をくださいました。今後、初中高合同でカリキュラムの作成にも着手していきたいとも考えています」
初中高合同 英語授業研究会

初中高合同 英語授業研究会

日本の教育機関で初めて、授業時の生成AI使用のガイドラインを作成

もう一つが、生成AIを使用する際のガイドラインを作ること。

現在、世界的に見て、学校現場での生成AIの使用について、議論が十分になされていない状態で、利活用が進んでいます。特に小・中学校段階で、どの内容をどのレベルまで指導するかを公開している教育機関はほとんどないそうです。

今田校長は「生成AIの発達段階ごとの使い方を定義していないと、教員それぞれの思い付きで使うことになり、学びを積み上げていくことができません」と指摘した上で、「一貫した組織として定義を明確にすることで系統立てた教育を進めていきたいと、日本で初めて生成AI使用のガイドライン作成の研究を始めました」と述べます。

この研究は、子どもたちの発達段階に精通した初等部から大学までの教員が参加し、2024年秋にスタート。2025年3月に開催された日本教育工学会春季大会で研究内容を発表し、高い評価を受けたそうです。

「ガイドラインは2025年度早々に本校ホームページで公開予定です。初中高での生成AIの使い方を保護者にも明確に示した上で、学びを進めていきます。生成AIを授業で利活用している学校は多々ありますが、それぞれの校種ごとに系統立てて明確に打ち出している学校は日本ではありません。それを初めてしようとしているのが本校。このような一歩も二歩も先を見据えた教育ができるのは本校の大きな強みです」
AI策定委員会

AI策定委員会

取材を終えて

関西大学初等部は、思考力を育成する同校独自のミューズ学習やICTの先進的な活用でも知られる学校。日本の小学校でApple認定校に初めて選ばれたのも同校で、現在も認定校として革新的な学びを発表しつづけています。

今回の取材でも、12年を見据えた英語授業の公開や生成AIの使用時のガイドライン作成など、類を見ない取り組みについてたくさん聞かせていただきました。このような革新的な教育を生み出すには多くの熱意と労力が必要です。その源となるのは、同校のモットーでもある「今の状況でできる最高の教育を子どもたちに」という思いでしょう。前年度の踏襲ではなく、毎年教育をアップデートしていく姿勢が、大阪の私立小学校で一番という高い出願倍率に表れているのだと感じる取材でした。
高学年 英語授業

高学年 英語授業

取材協力

関西大学初等部

〒569-1098 大阪府高槻市白梅町7番1号   地図

TEL:072-684-4312

FAX:072-684-4317

URL:https://www.kansai-u.ac.jp/elementary/

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