取材レポート

はつしば学園小学校

「2050年に自信を持って生きる30歳の育成」を目標に掲げるはつ小の教育

2003年の創立以来、従来の教育システムにとらわれない先進的で柔軟な教育を提供してきたはつしば学園小学校。同校の教育が2024年度に掲げる教育スローガンは「2050 PRIDE」。2050とは、今幼稚園に在籍する子どもたちがちょうど30歳を迎える年のこと。その時代の社会に必要とされる資質を育てていこうという思いから、このスローガンが生まれたそうです。校長の江川順一先生に、目指すものや具体的な取り組みについて話を伺いました。

はつしば学園小学校 校長 江川順一先生のお話
自分のキャリアに自信を持って生きている30歳が目標
刺激のシャワーによる原石磨き
2025年度から6年生全員でのオーストラリア研修旅行を開始
「物を説明する」「自分の思いを伝える」スキルを日常的に磨く
人のことを思う気持ちを育てる縦割り活動
9割以上の保護者に支持される先端の英語教育
編集後記
校長 江川順一先生

校長 江川順一先生

はつしば学園小学校 校長 江川順一先生のお話

自分のキャリアに自信を持って生きている30歳が目標

黒地に2名の児童の顔写真が印刷され、大きな文字で「2050 PRIDE」と綴られたはつしば学園小学校の広報用ポスター。一見、私立小学校のポスターとは思えないインパクトのあるデザインには、「他の小学校にはない、はつ小だからできる教育」を追い求める学校側の想いが込められています。2024年度の教育スローガンである「2050 PRIDE」が生まれた経緯について、江川校長は次のように説明します。

「社会に出て働く中で、特性や能力など自分についての色々な資質を把握でき、社会貢献を含め、自分の生き方が定まってくる時期が30歳頃です。今、年中や年長の子が30歳になるのが2050年。その時に子どもたちが自らのキャリアに自信(PRIDE)を持って生きられる姿を実現するために、そこから逆算して本校の教育を考えていこうと、このスローガンを掲げました」。

しかし、新しいテクノロジーが日々生まれてくる現代。2050年に求められる資質とはどのようなものかは今の価値観では測れない面もあります。

それに対し、江川校長は「予測不可能な時代にあっても、必要とされるのはやはり人間として本当に基本的なもの。すなわち、従来から学園が目指す児童像に掲げる『夢と高い志、挑戦、未来創造』ではないかと考えました。ただ、いくら大きい夢や高い志があって、挑戦する機会を得て未来を創る力を持ったとしても、それが自分のためだけだったら、社会や他者にマイナスに働くこともあります。だから、2024年度からは目指す児童像に『貢献』も加えました。周りにプラスになるようにと行動を起こせば、それが巡り巡って自分にも戻ってきます。人のためにもなると思えば、がんばれることもあるでしょう。小学校の6年間で『夢と高い志、挑戦、貢献、未来創造』の5つをしっかりと育んでいきます」と答えます。
「2050 PRIDE」

「2050 PRIDE」

刺激のシャワーによる原石磨き

続けて、江川校長はそれらの児童像を叶えるための具体策に「刺激のシャワーによる原石磨き」を挙げます。

「校長に着任して1年、子どもたちを見て思ったのは、子どもたちの奥底には磨かれていない色々な原石が眠っており、その原石たちは何に反応するか分からないということです。だから、2024年度は行事や外部講師による講演会などをたくさん企画しています。できる限り、多くの企画を実行して、子どもたちにさまざまな刺激のシャワーを浴びせかけることによって、子どもたちの中に埋もれている原石を掘り起こし、磨いていきます」。
小高連携_デジタルミシン

小高連携_デジタルミシン

まず6月3日に立命館大学・宇宙地球探査研究センターから佐伯和人教授を招いて、「月で暮らす時代の豆知識」というテーマの講演会を予定しているそうです。6年生対象で、月面で暮らすために何が必要かなどのお話のほか、実験もするとか。これ以外にも、日本初となるオリジナルランドセルでコラボしているミキハウスと連携し、SDGsにまつわる講演会を各学年で実施する予定です。

「小学3年生の講演会では、ミキハウスの工場でベビーシューズの制作に携わっている方についてお話しいただく予定です。SDGs12番目の目標には「つくる責任・つかう責任」があります。このことを踏まえ、ベビーシューズを縫製している人がどんな気持ちで作っているのかを語っていただき、子どもたちにはベビーシューズのデザイン案を考えてもらうことも考えています。講演を通して、物には、たとえ機械がかかわっていても、その先に人の想いがあるのだと気がついてほしいですね」(江川校長)。

また、2024年度、同じキャンパス内にある初芝立命館高等学校が文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール指定校となったことを受け、小高連携の理科教育も計画中です。高校生による理科の授業サポートのほか、高校にある立命館大学理工学部から貸与された先端のデジタル機器を使って色々な物作りをさせてもらいたいと考えているそう。

江川校長は「人間はやはり体験したこと以外はなかなか想像もできません。小学生の内に大学の授業で使うような機器で色々な体験ができれば、大きな刺激となり、子どもたちは自分の未来についてよりリアルに考えることができるようになると思っています」と語ります。
ランドセル

ランドセル

2024年度5年生から全員での Australia study trip(修学旅行)を開始

はつしば学園小学校では、刺激のシャワーの一環として、今年度の5年生から全員による海外修学旅行を開始します。日程は、来年2月に予定しています。その予行として現6年生の希望者が参加するオーストラリア研修を2024年2月に実施。5泊6日の日程の中にファームステイやラスティーズマーケットでの買い物体験、オーストラリア観光で定番のコアラタッチやクロコダイルクルーズ、熱帯雨林のジャングル探検など、多くのアクティビティを盛り込んだそうです。買い物体験は班に分かれて子どもたちだけで行動し、マーケット内のどのお店に行くかも子どもたちで決めたといいます。

「教員がお店を決めてあげて、そこで上手にやりなさいというスタイルにはしませんでした。挑戦しないと失敗もできませんから。失敗があるからこそ、次はがんばろうという気持ちになるのです。現5年生が全員で行く修学旅行では、現地の小学校との交流も取り入れる予定です。オーストラリアでしかできないさまざまな体験をさせていきたいですね」(江川校長)。
ワクワクドキドキのコアラタッチ

ワクワクドキドキのコアラタッチ

「物を説明する」「自分の思いを伝える」スキルを日常的に磨く

どんなに良いアイデアや想いを持っていても、それを周りに伝えられなければ意味がありません。子どもたちのアウトプット能力を磨くために、今までいくつかの学年で実施していた自分の好きな物を朝の会で紹介する「show & tell」を全学年で実施することにしました。

「朝の会の10分で1日2~4名に紹介してもらいます。早速、6年生のshow & tellを見てきました。その子は好きな物をひとつに絞りきれなかったからと、自分で好きな物の写真を複数取り込んだPowerPointを作成し、スクリーンに映し出して説明していたのですね。こちらが指示しなくても、自分で考えて実行できる姿に今までの教育成果を感じました。よい意味でこちらの期待を裏切ってくれるユニークな子どもたちがいっぱい育っていますね」と江川校長は笑顔を見せます。
show&tell

show&tell

人のことを思う気持ちを育てる縦割り活動

また同校を代表する教育の柱である「グループ・ペア学習」。今まではクラス内でペアを組んで、色々な活動にあたってきましたが、そこに2024年度からは学年縦割りの「レインボー活動」を組み合わせていく予定だといいます。その一例が1・2年生での「春見つけ」です。

「春見つけ」では、1・2年生でペアになった子同士が手をつなぎ、近くの公園に行き、ダンゴムシやツツジ、シロツメクサなど見つけた「春」を書き留めて帰ってきます。江川校長は子どもたちの様子について、「2年生の子は自分が1年生の時にしてもらったように、優しく面倒を見ますね。普段の授業では少し落ち着きがない子も完璧に下級生の面倒を見てくれて、意外な一面を知ることもできるんですよ」と話します。

秋のレインボー活動では初芝富田林中学校に行って、松ぼっくりやどんぐりを拾い、後日それを2年生がおもちゃにして1年生を遊びの会に招待するのだとか。

「グループ・ペア学習では、ペアを組んだ友達といろんなことを乗り越え、切磋琢磨し合うことを通じ、自立心を養ってきました。その横割り活動に縦割りとなるレインボー活動を組み合わせることで、相手のことを思う気持ちを育てていきたいと考えています。小学校の間はまずは学校内で貢献の経験を積み重ねることで、人間の基礎となる部分をきちっと作り込んでいきます。小学校の6年間を通じて、ブレることのない人間の基礎を作れることが、教員の転勤のない私学の強み。それが中高になって、外に出て社会と関わりながら花開けばいいと思うんです」(江川校長)。
グループペア学習_国語授業

グループペア学習_国語授業

縦割り活動_春見つけ

縦割り活動_春見つけ

9割以上の保護者に支持される先端の英語教育

英語を第二言語として学ぶ子どもたちのために作られたプログラム「GrapeSEED」を2018年度に関西の私立小学校で初めて導入するなど、英語教育に力を入れてきたはつしば学園小学校。2023年に開催された第19回西日本私立小学校連合会主催レシテーションコンテストで、5年生(現6年生)が2・6位に入賞するなど、子どもたちが同校の英語教育を通して着実に英語力を身につけている様子がうかがえます。

その英語教育をより充実すべく、2024年度からAIによるライティングアプリ『WeblioWRITING』を導入します。新しい展開について、江川校長は次のように説明します。

「本校の子どもたちは英語を話す力・聞く力に関してはずば抜けています。これはGrapeSEEDが楽しみながらそれらの力を伸ばすことに優れたプログラムだからです。ただ書くとなった時、単語が正確に書けなかったりすることがありました。そこで以前よりオンライン英会話やライティング添削で使っているiPad用学習アプリ『Weblio』シリーズのAIライティングアプリを2024年度から3~6年生に導入することにしました。今まで同アプリには中学生以上用しかなかったのを、制作会社に熱望して本校のためにわざわざ小学生用を作ってもらったんです」。

このアプリでは入力した英語検定の級に合せて、AIが自動で問題を出題してくれるため、自分のレベルに合せてどんどん進めていけるのが利点だといいます。また、母国語である日本語で書けないことは英語でも書けないと、国語科でも書くことに重点を置いた指導を行うそうです。
GrapeSEED

GrapeSEED

iPadを活用した授業

iPadを活用した授業

同校では英語教育の校内数値目標として、2024年度より、
・西日本私立小学校連合会主催レシテーションコンテストにおいて、1~8位の入賞者1名以上を目指す。
・英語検定において、卒業時に全員が「3級以上100%」取得する。
・入学時、3級以上取得児童については、卒業までに1グレード以上昇級(準2級以上)する
を掲げます。

このように明確な目標を掲げ、年々指導法をアップデートしている同校の英語教育。保護者の満足度も非常に高く、2023年度の保護者アンケートでは9割以上の肯定的評価を得ています。また、近年はインターナショナルスクール卒業生の入学者が格段に増えているのだとか。

江川校長は「英語教育は本校の教育の柱です。去年と同じことをやっていては意味がありません。社会のニーズやご家庭の要望に合せ、新しい試みをどんどん取り入れていきます」と熱く語ります。
校内レシテーションコンテスト

校内レシテーションコンテスト

西日本レシテーションコンテスト

西日本レシテーションコンテスト

編集後記

はつしば学園小学校には20歳になった卒業生たちが同校に集合する「二十歳の集い」という名物行事があります。2024年も1月に第8期生96名中54名と約6割の卒業生が集まったそうです。江川校長はその時の様子を振り返り、こう話します。

「大学の医歯薬系学部に進学した子や東大・京大・阪大などの難関国公立大学に進学した子、救急救命士、動物園の飼育員を目指すために専門の学校に進学した子、中には文化庁から奨励賞を受賞した舞妓さんになった子もいました。ナンバーワン・オンリーワンばっかりで、本校はそういう子どもたちを育てる学校だったんだなと改めて感動しました。これは先生方に子どもたち一人ひとりに寄り添って、好きなことにどんどん取り組ませ伸ばしていこうとする気風があったからこそ。その素地があるから、刺激のシャワーもより意味を持つでしょう」。

刺激のシャワーと子どもたちを温かく見守る環境。そのふたつがうまくかみ合って、子どもたちに眠る多くの原石が光り輝く様が目に浮かぶようです。熱意あふれる江川校長のもと、大きく進化するはつしば学園小学校の教育。ぜひ学校説明会などで確認してみることをおすすめします。
「二十歳の集い」

「二十歳の集い」

「二十歳の集い」

「二十歳の集い」

取材協力

はつしば学園小学校

〒599-8125 大阪府堺市東区西野194-1   地図

TEL:072-235-6300

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