関西大学初等部
「主体的・対話的で深い学び」によって、知識の理解の質を高める
2010年の開校当初から「考え方を考える」ミューズ学習をはじめ、さまざまな場面で「思考力」を育成する学びを展開してきた関西大学初等部。これまでの教育内容を軸に、さらに学習指導要領改訂の方向性を踏まえ「主体的・対話的で深い学び」によって、知識の理解の質を高める授業に取り組んでいます。その取り組みの内容とともに、実際の授業での子どもたちの様子や中等部へ進学した卒業生のお話など、その成果についてお話をうかがいました。
校長 田中 達也 先生
教頭 長戸 基 先生
「主体的・対話的で深い学び」への取り組み
「主体的・対話的で深い学び」はまさに関大初等部が目指している学びといえます。開校当初から「思考力」の育成に取り組んできましたが、「主体的な学び」を展開するためには、まず、どれだけ自らの課題として目の前にある問題を捉えるか、からスタートします。そのためにポイントとなるのは、子どもたちにどんな課題をどのように提示するかということ。難しい問題をただ与えるだけでなく、興味を持って考えられる問いかけとなるよう授業を展開しています。
主体的に課題に取り組むためには「基礎・基本」が必要です。ここでいう「基礎・基本」とは知識や理解だけではなく、学ぶ手法としての「技」を持っているかということ。学び方の基礎・基本とは、思考スキルという捉え方をしながらどんな頭の使い方をしたらその課題を解決できるのかを考えることです。初等部では、「考えることを考える」学びとして、比較する、分類するなど、6つの思考スキルを習得する「ミューズ学習」の時間を設定し、思考スキルを複合的に使えるような学びを、ミューズ学習を通して低学年から行っています。
ミューズ学習では、自分の「考えを見える化」したら、必ずそのことについて友達と意見交換したり、全体て交流したりする活動を取り入れています。これはミューズ学習が全校をあげての取り組みだからできることです。使用したツールを全校児童が知っていて理解しているから、コミュニケーションツールとして伝えることができる、共感することができるのです。このように、「対話的な学び」を深めるためにも、本学の推進するミューズ学習は効果的だといえます。
子どもたちの興味を引き出す課題の与え方には仕掛けが必要です。問いと正解の繰り返しや、単に正解を求めることだけが学習ではありません。解を導き出すための過程を大事にする授業デザインを教員は日々研究しています。対話しながら驚きや発見を得て、答えにたどり着くまでの道筋を自ら見つけ出せるような仕掛けを、授業の中に散りばめて深い学びにつなげていくのです。
単純な一問一答形式ではなく、ペア、グループ、クラス全体で……。常に他者との対話を授業に組み込んで意見交換を行い、ズレを修正しながら答えに一歩一歩近づきます。時には教員から「本当にそうかな?」などと子どもたちの思考に揺らしを入れ、楽しく考えて学べる授業を実践。対話的な学びの実践では、個の解決の場をつくったうえで、仲間と解決する場も大事にしています。自分の考えを発信すること、そして、その考えに対する仲間の意見も聞いてみることで、「そんな考え方もあるのか!」という気づきが生まれ、さらに「もっと深く考えてみよう」という主体的な学びにつながっていくことを期待しているのです。
例えば理科の授業では、子どもたちが「あれ? なんで?」と思うような課題を与えることを第一に考えて授業をデザインしています。
6年生では物の燃え方という単元があります。「火のついた花火を水につけたらどうなるか?」という問いに対して、子どもたちは大抵「消える」と答えます。でも、実際にやってみると火はついたまま燃え続けるのです。「なぜだろう?」と子どもたちは疑問に思います。そこで、「その疑問を解決していこう」と呼びかけ、水に入れても燃え続ける花火の理由を説明するために、こんな実験をしてみよう、あんな実験もしてみようと授業を展開していきます。そうすることで、子どもたちは単に実験の手順を覚え、実験器具の操作をするだけではなく、自分なりの予想を立て、「なぜこの実験をしているのか」を理解し、「こうなるのはなぜなのか」を考えながら授業に取り組むことで、主体的な学びへと繋がっていくのです。
水の中でも花火が燃え続けるためには火薬、酸化剤、熱の3つの要素が必要なのですが、この3つが揃っていなくてはいけないということを説明するために、例えば「多面的に見る」スキルを活用し、ボーン図で考えをまとめて最終的なゴールにたどり着きます。ここでも低学年から繰り返し学び、経験してきたミューズ学習が活きてくるのです。もちろん、教科によって活用方法は違ってきます。必ずシンキングツールを使って授業をするわけではありませんし、むしろ使っていない授業の方が多いでしょう。しかし、ミューズ学習で学んだ考え方の引き出しをたくさん持っていることが、その先のどこかで役立てばいいのです。全校で取り組んでいるからこそ、学年が変わっても、担任が変わっても、ミューズ学習は使えます。下の学年で学んだ思考スキルが上の学年になってから役立ったり、一見関係なさそうな学びの場面で役立ったりすることも多々あります。
子どもたちの常識を覆すような学習課題があると、「なんで?」と興味を持ちます。それについて「調べてみたい」という気持ちが芽生え、それが学習のエンジンとなり、「次は? 次は?」と自然と学びは深いものになっていきます。しかし、課題の与え方がうまくいかなければ、子どもたちが途中で躓いてしまったり、飽きてしまったりしてしまいます。ですから、良い課題の与え方については、教員同士で情報交換しつつ、「見通しと振り返り」を繰り返しながら研究して授業をデザインしています。クラスによって反応が違うのも面白いところで、子どもたちの様子を見ながらクラスごとにやり方をアレンジしたりしています。個人個人でも反応は違うので、次に進むときには前回の授業を振り返り、次の授業での子どもたちの反応を想定しつつ、展開に変化を持たせています。子どもたちが行う振り返りのなかで「今日はここまでわかったから次はこんなことがしたい」という主体的な学びに対する意見を、そのまま次の授業に引き継いでいくこともあります。
このように本学では1年生から「思考力」の育成に積極的に取り組んでおり、高学年になると、様々な学習の場面で積み重ねてきた学びの力が顕著に発揮されるようになります。「自分はこんな考え方をして、こんな分類をして、こんな比較をして、こうやって組み立ててみよう」というような学びの見通しを立てる、メタ認知能力が身につきはじめるのです。
中等部では「考える科」という思考力育成の取組がありますが、中等部の教員から「初等部出身の生徒は物事を整理して、上手に話ができる」という報告を受けています。「考える科」でのイニシアティブを取っているのは初等部出身の子どもたちが多いとのこと。考え込まないとわからないような課題に突き当たると、うれしそうに目を輝かせるそうです。低学年からミューズ学習を経験して来た子どもたちは何かを説明するときに絵や図を描いて説明することが多く、論理的に説明できる能力が高いという評価も受けました。「思考力」は目に見える成果としてはっきりとした数値などで計れるものではありませんが、繰り返し行ってきた結果、子どもたちの頭の中ではあらゆる場面で使われているのだと思います。
考えることが楽しいという経験によって、学びに向かう主体的な力がついてきている証です。
学力的なところも、早くから「思考力」に取り組んできた成果が出ています。全国学力・学習状況調査の結果において、本学では国立平均との差異を指標にしているのですが、昨年度の6年生は国立平均を大きく上回りました。これまでも国立平均を上回っていましたが、昨年度はその結果がより顕著でした。特に学んだ知識を活用する力を見極めるB問題において良い成績となっており、直接思考力に結びつく結果だと捉えています。
主体的に課題に取り組むためには「基礎・基本」が必要です。ここでいう「基礎・基本」とは知識や理解だけではなく、学ぶ手法としての「技」を持っているかということ。学び方の基礎・基本とは、思考スキルという捉え方をしながらどんな頭の使い方をしたらその課題を解決できるのかを考えることです。初等部では、「考えることを考える」学びとして、比較する、分類するなど、6つの思考スキルを習得する「ミューズ学習」の時間を設定し、思考スキルを複合的に使えるような学びを、ミューズ学習を通して低学年から行っています。
ミューズ学習では、自分の「考えを見える化」したら、必ずそのことについて友達と意見交換したり、全体て交流したりする活動を取り入れています。これはミューズ学習が全校をあげての取り組みだからできることです。使用したツールを全校児童が知っていて理解しているから、コミュニケーションツールとして伝えることができる、共感することができるのです。このように、「対話的な学び」を深めるためにも、本学の推進するミューズ学習は効果的だといえます。
子どもたちの興味を引き出す課題の与え方には仕掛けが必要です。問いと正解の繰り返しや、単に正解を求めることだけが学習ではありません。解を導き出すための過程を大事にする授業デザインを教員は日々研究しています。対話しながら驚きや発見を得て、答えにたどり着くまでの道筋を自ら見つけ出せるような仕掛けを、授業の中に散りばめて深い学びにつなげていくのです。
単純な一問一答形式ではなく、ペア、グループ、クラス全体で……。常に他者との対話を授業に組み込んで意見交換を行い、ズレを修正しながら答えに一歩一歩近づきます。時には教員から「本当にそうかな?」などと子どもたちの思考に揺らしを入れ、楽しく考えて学べる授業を実践。対話的な学びの実践では、個の解決の場をつくったうえで、仲間と解決する場も大事にしています。自分の考えを発信すること、そして、その考えに対する仲間の意見も聞いてみることで、「そんな考え方もあるのか!」という気づきが生まれ、さらに「もっと深く考えてみよう」という主体的な学びにつながっていくことを期待しているのです。
例えば理科の授業では、子どもたちが「あれ? なんで?」と思うような課題を与えることを第一に考えて授業をデザインしています。
6年生では物の燃え方という単元があります。「火のついた花火を水につけたらどうなるか?」という問いに対して、子どもたちは大抵「消える」と答えます。でも、実際にやってみると火はついたまま燃え続けるのです。「なぜだろう?」と子どもたちは疑問に思います。そこで、「その疑問を解決していこう」と呼びかけ、水に入れても燃え続ける花火の理由を説明するために、こんな実験をしてみよう、あんな実験もしてみようと授業を展開していきます。そうすることで、子どもたちは単に実験の手順を覚え、実験器具の操作をするだけではなく、自分なりの予想を立て、「なぜこの実験をしているのか」を理解し、「こうなるのはなぜなのか」を考えながら授業に取り組むことで、主体的な学びへと繋がっていくのです。
水の中でも花火が燃え続けるためには火薬、酸化剤、熱の3つの要素が必要なのですが、この3つが揃っていなくてはいけないということを説明するために、例えば「多面的に見る」スキルを活用し、ボーン図で考えをまとめて最終的なゴールにたどり着きます。ここでも低学年から繰り返し学び、経験してきたミューズ学習が活きてくるのです。もちろん、教科によって活用方法は違ってきます。必ずシンキングツールを使って授業をするわけではありませんし、むしろ使っていない授業の方が多いでしょう。しかし、ミューズ学習で学んだ考え方の引き出しをたくさん持っていることが、その先のどこかで役立てばいいのです。全校で取り組んでいるからこそ、学年が変わっても、担任が変わっても、ミューズ学習は使えます。下の学年で学んだ思考スキルが上の学年になってから役立ったり、一見関係なさそうな学びの場面で役立ったりすることも多々あります。
子どもたちの常識を覆すような学習課題があると、「なんで?」と興味を持ちます。それについて「調べてみたい」という気持ちが芽生え、それが学習のエンジンとなり、「次は? 次は?」と自然と学びは深いものになっていきます。しかし、課題の与え方がうまくいかなければ、子どもたちが途中で躓いてしまったり、飽きてしまったりしてしまいます。ですから、良い課題の与え方については、教員同士で情報交換しつつ、「見通しと振り返り」を繰り返しながら研究して授業をデザインしています。クラスによって反応が違うのも面白いところで、子どもたちの様子を見ながらクラスごとにやり方をアレンジしたりしています。個人個人でも反応は違うので、次に進むときには前回の授業を振り返り、次の授業での子どもたちの反応を想定しつつ、展開に変化を持たせています。子どもたちが行う振り返りのなかで「今日はここまでわかったから次はこんなことがしたい」という主体的な学びに対する意見を、そのまま次の授業に引き継いでいくこともあります。
このように本学では1年生から「思考力」の育成に積極的に取り組んでおり、高学年になると、様々な学習の場面で積み重ねてきた学びの力が顕著に発揮されるようになります。「自分はこんな考え方をして、こんな分類をして、こんな比較をして、こうやって組み立ててみよう」というような学びの見通しを立てる、メタ認知能力が身につきはじめるのです。
中等部では「考える科」という思考力育成の取組がありますが、中等部の教員から「初等部出身の生徒は物事を整理して、上手に話ができる」という報告を受けています。「考える科」でのイニシアティブを取っているのは初等部出身の子どもたちが多いとのこと。考え込まないとわからないような課題に突き当たると、うれしそうに目を輝かせるそうです。低学年からミューズ学習を経験して来た子どもたちは何かを説明するときに絵や図を描いて説明することが多く、論理的に説明できる能力が高いという評価も受けました。「思考力」は目に見える成果としてはっきりとした数値などで計れるものではありませんが、繰り返し行ってきた結果、子どもたちの頭の中ではあらゆる場面で使われているのだと思います。
考えることが楽しいという経験によって、学びに向かう主体的な力がついてきている証です。
学力的なところも、早くから「思考力」に取り組んできた成果が出ています。全国学力・学習状況調査の結果において、本学では国立平均との差異を指標にしているのですが、昨年度の6年生は国立平均を大きく上回りました。これまでも国立平均を上回っていましたが、昨年度はその結果がより顕著でした。特に学んだ知識を活用する力を見極めるB問題において良い成績となっており、直接思考力に結びつく結果だと捉えています。
2020年からのプログラミング教育必修化に向けて
今後、小学校でのプログラミング教育が必修化されることが決定しています。それに対応して、初等部のプログラミング教育について検討・試行を始めており、担当教員が全学年を通してプログラミングの授業デザインを行っています。授業で重点を置いているのは、単にプログラミング言語を覚えてコードを書くことではなく、思考力を伸ばすためにプログラミングがどのように活用できるかを学ぶこと。つまり、コンピュータのソフトも活用しながらプログラミング的な思考を身につけることを目的にしているのです。プログラミング的思考とは、意図したことを実現させるために、何が必要でどのような機能を組み合わせればいいのか検討したり、その組み合わせをどう改善すれば効率的かといったことを論理的に考えたりする力のこと。
そのために、プログラミングの基本である関数の概念を理解したり、アルゴリズムを理解したりということを体験的に教えていこうと取り組んでいます。学びのツールとしてのiPadは、1年生から3年生までは学校所有のもの、4年生からは個人所有のものを使用し、今後はコミュニケーションツールとして、活用の場を広げていきます。また、プログラミングの授業は教科と絡めて授業展開もしていく予定です。
そのために、プログラミングの基本である関数の概念を理解したり、アルゴリズムを理解したりということを体験的に教えていこうと取り組んでいます。学びのツールとしてのiPadは、1年生から3年生までは学校所有のもの、4年生からは個人所有のものを使用し、今後はコミュニケーションツールとして、活用の場を広げていきます。また、プログラミングの授業は教科と絡めて授業展開もしていく予定です。
「人とつながる力」「生きる力」を育む国際理解教育
2018年度も引き続き、国際理解教育に力を入れています。ICTを効果的に活用し、2年生は韓国、3年生は中国、4年生は台湾、5年生はフィリピン、6年生はオーストラリア(2017年度取組)の子どもたちとのテレビ会議等による交流を通して、広い視野とコミュニケーション力、異文化理解力を培い、「世界とつながる力」を育成します。特に6年生は、5泊7日のオーストラリア海外研修旅行でのホームステイ体験において、貴重な経験を積みます。苦労することもありますが、旅先で感じた「もっと英語で会話できるようになりたい」「もっと相手の話を理解したい」といった思いを原動力に、これからの生き方を考えるきっかけにつなげられるよう、学びを深めていきます。