取材レポート

関西大学初等部

考え方の技法を具体的に学び、それを活用するカリキュラムを通して思考力を育成する

複雑で激しく変化する社会を生き抜くための力として注目されている21世紀型能力。この能力の中核である「思考力」の育成に、2010年の開校以来、取り組んできた関西大学初等部。同校で日々展開される教育のもと、どのように子ども達は思考力を育んでいくのでしょうか。校長の長戸基先生に話を伺いました。

関西大学初等部校長 長戸基先生のお話
校長 長戸基先生

校長 長戸基先生

関西大学初等部校長 長戸基先生のお話

考え方を具体的に学ぶミューズ学習

近年の学校教育において思考力の育成が重視されていますが、その目には見えない力をどのようにして育んでいくかを明確に提示している学校は多くはありません。関西大学初等部は、その具体的な指導法を提示している数少ない学校のひとつです。

思考力育成の指導の柱となるのは、同校オリジナルのミューズ学習。同学習では、子ども達が自分の思考を見える化するツール(シンキング・ツール)を使って、考え方の技(思考スキル)を体験的に学びます(図1)。ミューズ学習で身に付けた思考スキルを各教科でも活用することで、子ども達は自然と思考スキルを使いこなせるようになるといいます。

シンキング・ツール「ベン図」を使って、思考スキル「比較する」を学ぶ時の授業内容を、長戸先生は以下のように説明します。

「例えば、子ども達に私と隣にいる教頭とを比べてもらいます。すると『背の高さが違う』や『メガネを掛けている・掛けていない』など違う所を指摘する意見ばかりが出てくるんですね(図2)。そこでシンキング・ツール『ベン図』を使います。私と教頭のそれぞれの特徴を円で囲うと真ん中に円の重なる部分ができます(図3)。子ども達に円の重なる部分に何が入るかを問うと『どっちも先生』『どっちも人』などの意見が出てきます。比較する時には違いだけではなく、共通点に目を向けることがとても重要ですが、自発的に共通点に目を向けられる子どもは極めて少ないのです。『ベン図』を使うことによって、共通点・相違点を見える化し、意識させることができます」。

理科教員でもある長戸先生。かつて自身の授業で見られた子ども達が思考スキルを使いこなす様子を、次のように語ります。

「4年生で『水が氷になると体積が増える実験結果』を提示した時に、すぐにひとりの子が『だから氷は水に浮くんだ!』と言ったんですね。なぜそう考えたかを聞いたら、その子は水と氷を組み合わせたベン図を書いて、円が重なった所に『重さ』を書き、『同じ重さの水と氷を比べたら、体積は水の方が小さくて、氷の方が大きい(図4)。じゃあ体積を同じにして比べたら(といってべん図の円が重なったところに『体積』と書き)、水の方が重くて、氷の方が軽い(図5)。だから氷は水に浮くんだ』と説明してくれました。比較する時に何が同じで何が違うかを意識しているからこそ、瞬間的にそう考えたのだと思います。比較するという思考スキルを身に付けることで、理解が深まる良い例です」。

また、シンキング・ツールはコミュニケーション・ツールとしても非常に有用だと長戸先生は指摘します。

「シンキング・ツールを使って思考を見える化することで、自分の考えを整理しやすくなるだけでなく、他者の意見の成り立ちも見えやすくなります。すると議論をする際にも、自分と他者の意見の違いはどこから生まれたものなのかを分かった上で、深い議論をすることができます」。

これらの思考力育成の取り組みは、開校以来、全国の小学校に先駆けて進めてきたものですが、関西大学初等部では基礎基本も疎かにはしていません。文部科学省が毎年全国の小学6年生を対象に行う全国学力・学習状況調査(テスト)でも、同校の平均点は、公立校はもちろん私・国立校をも大きく上回ります。

今後の展望について、長戸先生は「思考力育成には分野を横断した学びも重要です。そこで本校では、2021年度からミューズ学習をベースとしたSTEAM教育にも踏み出しました。これも教科の専門性を追究し、全国から意欲のある教員を採用しているからこそ実現できたこと。これからも教員全員がひとつの方向を向いて、思考力育成を進めていきます」と熱く語ります。

相手意識を高め、世界の人とつながる国際理解教育

関西大学初等部でミューズ学習と共に、力を入れて取り組んでいるのが国際理解教育です。2年生から海外の子ども達との交流を実施しています。この海外交流について、長戸先生はこのように述べます。

「2年生は韓国の花津(ファジン)小学校の子ども達とZoomで交流しています。これまで先方からプレゼントしてもらった韓国コマでコマ回し対決をしたり、韓国すごろくで遊んだりしてきました。特に低学年の内は、一緒に遊べることを大事にしています。国や言葉が違っても、同じように楽しめて遊べるんだという実感が、相手がどのような人かを知りたい・理解したいという気持ちを高め、それが国際理解につながっていくからです」。

また、国際理解教育を進める上で欠かせないのがコミュニケーション・ツールとしての英語です。

同校では初等部での6年間を「英語考動力」の基礎を育む時期と設定しています。「英語考動力」とは、相手からの英語のメッセージを正確に受け取れること、そしてそれについて思考し判断したことを自分の考えとして英語で明確に相手に伝えられる力のこと。この力を育むため、同校では1年生から英語活動を取り入れ、3・4年生では週3日、5・6年生では週4日の英語の授業を設定しています。

「1年生からネイティブ教員による英語のシャワーを浴び、歌を歌ったり、3年生になるとシャドーイングをしたりすることで英語耳を鍛えていきます。またiPadのアプリも活用しています。自分のオリジナルキャラクターを作って、そのキャラクターと英語でおしゃべりしたり、高学年になると英語で学校のプロモーションビデオを作ったり。最近では英語発音矯正アプリ『ELSA』を導入しました。自分の発音が点数化されるので、楽しみながら発音の練習をしている姿がたくさん見られるようになりましたね」と長戸先生は笑顔を見せます。

ほか、教科書もOxfordの『Everybody UP』(1・2年)やNational Geographicの『Explore Our World』(3・4年)・『LOOK』(5・6年)などのオールイングリッシュのものを使っており、5年生で中1、6年生で中2の内容を学びます。卒業時には半数以上が英検3級、20%以上が準2級・2級、なかには準1級を取得している子もいるそうです。同校には、英語にほとんど触れずに入学してきた子もいます。それでいて、例年この英検取得率を達成できているのは、同校の英語教育がいかに子ども達の英語力を伸ばしてくれるかを物語っています。

実体験を通し、物事を自分ごととして考える力を養う

「今、できる最高の教育を子どもたちに」をモットーに教育を展開してきた関西大学初等部。コロナ禍でもICTを駆使し、様々な学びを止めることなく子ども達の元に届けてきました。2022年度は宿泊行事も再開し、6年生では3年ぶりに修学旅行を実施。4泊5日で東北3県を周遊したそうです。

「1日目は飛行機で青森、2日目は盛岡、3日目は東日本大震災で大きな被害にあった岩手県の大槌町へ行った後、宮古市へ、4日目は仙台と、東北を新幹線を使ってダイナミックに移動し、様々な体験学習を行いました」。

大槌町ではたくさんの建物があった所が津波や火災で更地になって、そのままになっている風景を見たり、語り部から話を聞いたり、東日本大震災時に住民の方が実際に避難した道も歩いたといいます。

「避難経路はとても細く、勾配があるので登っていく内に息が切れます。『あの日、この道を小さな子の手を引いたお母さんや年配の方も登ったんだな』と体感した上で防災ワークショップを行いました。現地で実際に体験することで、震災というものが自分ごとになったのではないでしょうか」。

もちろん楽しい体験も盛りだくさんで、盛岡では名物のわんこそばを食べたり、宮古では日本版「青の洞窟」と言われる八戸穴を遊覧したりもしたそうです。

同校の修学旅行は、コロナ禍以前はオーストラリアに4泊7日で行っていました。今回の東北修学旅行は、それに劣らない経験を、そして同校でしかできない体験を子ども達にさせてあげたいと計画を組んだそう。これも「今、できる最高の教育を子どもたちに」という姿勢のひとつの表われだと長戸先生は話します。

「全国的なコロナの感染拡大のため延期になった際には、現地に再度下見に行ってコースを変更しました。準備はとても大変でしたが、その甲斐があって、ありきたりではない修学旅行になったと自負しています。あれだけ移動して、あれだけの活動を盛り込んだ修学旅行はなかなかないと思います。本校は思考力育成に向けた取り組みに力を入れていますが、それも体験があってこそ。体験を通して学んで行くことを、これから先も大切にしていきます」。

まとめ

2022年度は東京にあるネパール人学校と5年生の交流もスタートしました。今後はネパール本国の学校との交流も計画しています。これもコロナ禍で実際に海外に足を運べない中、子ども達の海外交流の幅を広げるために何か出来ないかと模索した結果、実現できたこと。「子ども達のために、毎年同じ事の繰り返しではなく常に教育をバージョンアップしていきます」と長戸先生。

「今、できる最高の教育を子どもたちに」をモットーに教育を進めていく関西大学初等部。同校で展開される最先端の教育と共に、常に最高の教育を追い求める教員の姿からも、子ども達は多くのことを学んでくれることでしょう。

取材協力

関西大学初等部

〒569-1098 大阪府高槻市白梅町7番1号   地図

TEL:072-684-4312

FAX:072-684-4317

URL:https://www.kansai-u.ac.jp/elementary/

関西大学初等部