取材レポート

箕面自由学園小学校

子どもと目線の高さを合わせた温かな教育のもと、人間としての原点を培う6年間

創立100周年を目前に控えた箕面自由学園小学校。同校は、第二次世界大戦により一度廃校の危機に瀕したことがあります。その危機を救ったのが、保護者達です。「自分の子どもを通わせたい」とお金を持ち寄り、学校を再建したのだとか。それから長い年月を経ましたが、今でもその保護者達の思いを礎とした温かな教育が、同校では展開されています。中高校長を務め、2023年度から小学校の校長も兼任する田中良樹先生と、1年生担任の信枝貴子先生に、同校の教育の特長と、教育を通して育まれる力について、話を伺いました。

校長 田中良樹先生のお話
少人数ならではの温かな教育と豊富な体験活動
小中高の連携を深め、新たな学びを探る
クラスの約半分が児童会会長に立候補
人間としての原点を大切に育てる

1年生学級担任 信枝貴子先生のお話
小さな大会を通し、達成感を育む
子ども達の学校生活を伝える、毎日の学級通信
少人数だから出来る、子どもに寄り添った学び

まとめ
校長 田中良樹先生

校長 田中良樹先生

1年生学級担任 信枝貴子先生

1年生学級担任 信枝貴子先生

校長 田中良樹先生のお話

少人数ならではの温かな教育と豊富な体験活動

この度、校長に就任した田中校長が箕面自由学園に来られたのは2014年のこと。「最初は高校の校長として呼んでもらい、次に中学校も、そして今年は小学校の校長に就任しました。中学校・高校は自分の子どもを入れたくなる学校にしたいと思って携わってきましたが、小学校はもう孫ですね。自分の孫を入れたくなるような学校を目指しています」と笑顔を見せます。

小学校の校長に就任してからの約2週間で、田中校長が同校の魅力だと感じた点は「少人数ならではの温かい教育と豊富な体験活動」だと話します。

「宿泊行事などの行事はもちろん、理科の実験など日々の授業でも体験活動がたくさんあります。実際に実験や体験活動をやってみると意外と失敗することが多いです。その中から学べるものはたくさんあります。また、成功しても失敗しても教員が屈託なく一緒に喜んだり、反省したりする姿をこの2週間、よく見ました。教員の目線の高さが子どもと同じという点も良いなと感じました。これも少人数で目が行き届くからできることです」(田中校長)。

また、田中校長は「同じ敷地内に幼稚園から高校まであり、幅広い年代の子ども達が通うのも本校の良い点のひとつ」だといいます。

「小学校だけしかなければ、6年生の子が最上級生です。でも、中学生も高校生も同じ敷地でいることで、自分達の3年後、6年後がどうなっているかが目に見えます。目標とする存在に囲まれていることで育まれるものがあります。それは教員が色んな指導を行うよりも、子ども達に大きな影響を与えるかもしれません」(田中校長)。

小中高の連携を深め、新たな学びを探る

田中校長は小中高の校長を兼任することになり、学校間の連携も深めていきたいと考えているそうです。2023年度は、小学校の運動会で高校の吹奏楽部『ゴールデンベアーズ』に校歌や国歌のほか、1・2年生が踊るダンスの曲を演奏してもらう予定だとか。このような行事での連携に加え、アフタースクール『わくわくHOME』を中高生のボランティアに手伝ってもらうことも検討しています。

「中高合わせて2000人以上の生徒がおり、中には将来子どもと関わる仕事に就きたいと考えている生徒もいます。放課後、そういった生徒に小学校で勉強の面倒を見たり、子ども達と一緒に外遊びをしたりしてもらえないかと考えています。中高生には自分の後輩達に色んなことをしてあげたいという気持ちがあるだろうし、小学生も先輩の姿を見ることで中高に進むことが楽しみになるのではないかと思っています」(田中校長)。

また、昨年高校で行った『MJGフェスタ舞台芸術の部』を、今年度は小中も何か参加できないか模索中だそうです。

田中校長は「高校生ががんばっている姿を子ども達や保護者にも観ていただければと思っています。今までは小中高のそれぞれが独立した存在でした。しかし、私が小中高の校長を務めることになり、せっかく一つの所に集まっているのだから、これからは連携を深めていきたいと考えています。小中高が融合することで化学反応を起こし、お互いに良い影響が出るではないかと期待しています」と楽しそうに語ります。

クラスの約半分が児童会会長に立候補

以前より、田中校長は高校の校長をしていて、時間も手間もかかる生徒会の仕事に手をあげてくれる生徒にMJGの出身者が多いことを不思議に思っていたそうです。その疑問が先日の児童会の選挙で解けたと話します。

「6年生は1クラスですが、7人も会長に立候補してくれたんですね。皆、人のために何かをしたいと思って手を上げてくれました。その想いが、高校生になっても受け継がれているのだと感じました」(田中校長)。

なぜ、そんなにも多くの子ども達が人のために何かをしたいと考え、行動を起こすようになるのでしょうか。その答えは、先生方の日々の接し方にあるのではないかと田中校長。

「子ども達一人ひとりの目を見て、話を聞いて、その子が一歩前に出て何かをすることを促し、それを受け入れる。そういったことを教員が丁寧に行い、子ども達は日々、達成感を得ています。その経験の積み重ねが、人のために何かをしたいと思う人間を育てることにつながっています」(田中校長)。

人間としての原点を大切に育てる

日々達成感を得て、自分は有用な人間であると感じられることは、子ども達が大きくなり社会に出ていく時にもとても大切です。

田中校長は「大きく職業観が変わりつつある今の社会において、例えば何か高度な資格を取得すれば将来は安泰といった従来の成功の方程式は通用しません。しかし、いかに社会が変わろうとも、そしてどんな仕事でも、+αの工夫ができる人は必要とされます。創意工夫とは、自己否定から始まる人間からではなく、自分はやれる・やってみようと思う人間から生まれます。そういう人間を育てていきたいですね」と熱く語ります。

続けて、田中校長はコロナ禍を経て人のつながりが薄くなっている今、改めて人とつながる力を育んで行きたいと話します。

「人間だからうまく行かない時、しんどい時も当然あります。その時にどう持ち直すか。もちろん、自分の力だけで戻れる子もいますが、仲間の力も大きいのではないでしょうか。そのために人とつながる力を備えていることは、とても大切です。利害関係のない中で人とつながる力を育むのは、大学や社会人になると難しい。だから小中高の間に、その力を育んでいきたいと思っています」(田中校長)。

人とつながる力を育てるには、子ども達の中に人間的温かさを培うことが必要だと田中校長。そのために、どのようなことを心がけているか。登校時の光景を例にあげて、こう説明します。

「毎朝登校してきた子ども達とハイタッチをしていますが、中にはハイタッチを避ける子もいます。その中の一人が今朝来た時、いつも僕を避けている子やと思って、あえて手を持っていったら、初めてちょっとだけポッと手を当ててくれました。この子にとって、ひとつの殻を破ったんじゃないかなと嬉しかったですね。こうやって、『私は君のことをちゃんと見てますよ』と日々の生活の中で、子どもに伝えることを大事にしていきたいと思います」(田中校長)。

多くの人から見守られている。そう感じることの繰り返しが、子どもの中に人とつながれる温かさを生むのでしょう。

「もちろん英語が喋れる、ICTが使えるといったテクニカルな部分も大切です。しかし、それらは大人になってからでも手に入れられるもの。人間としての原点に戻り、人のために行動できる・人とつながれる人間的温かさがある・自己有用感を持っているという大切な資質を育むことに焦点をあてて、教育を進めていきます」と田中校長は話します。

1年生学級担任 信枝貴子先生のお話

小さな大会を通し、達成感を育む

同校では子ども達に達成感を感じてもらおうと、例えば漢字大会やなわとび大会など、最後に賞状を渡してあげられるような小さな大会を、2週間ほどの短いスパンで設定しているそうです。信枝先生は、この取り組みで心がけていることはスモールステップだと話します。

「苦手な内容でも『とりあえず2週間がんばろう!』と声を掛けて、毎日小さなテスト設定し、進めていきます。この時、ちょっとしたことでも褒めることが大切です。自信が付けば、次の目標も見えてきますから。それを繰り返す内にどんどん力が付いてきて、最終的には皆とても良い結果を出してくれます」(信枝先生)。

毎年学年末に受ける漢検も、「皆で合格しようね!満点を目指そう!」と日々小テストを重ねていくそうです。例年、満点者は10人以上、一昨年は30人学級の中で17人が満点合格という素晴らしい結果を残しています。

これらの取り組みの中で重要な位置にあるのが、なわとびです。
同校ではなわとびに力を入れていて、70のレベルが設定された進級表をもとに、子ども達は6年間かけてなわとびの技を磨いていきます。最初は縄を回すのもやっとという子達も、段々出来るようになっていく過程で目の色が変わってくるそうです。

「毎日、私と副担任でチェックをするのですが、子ども達が一回でも多く跳びたいと進級表を手に持って職員室に並ぶようになるんです。あるお母さんから、休みの日に5時間も練習していたと聞いたこともあります」と信枝先生は笑顔を見せます。

そこまで練習しなくてもと思う一方で、そういった「のめり込み」が大切だと感じていると信枝先生。

「のめり込むことでなわとびの技術が磨かれることはもちろん、それ以上に自分が将来目標を持った時に、そこにどうエネルギーをつぎ込んでいくかの練習としての意味が大きいと思っています。コツコツやっても大会で賞状が取れないこともあります。自分が思うような結果を残せなかった時の悔しさをどうやって次頑張ろうという心につなげていくか。多くのことを、子ども達は小さな大会から学んで行きます」(信枝先生)。

子ども達の学校生活を伝える、毎日の学級通信

このように子ども達に寄り添いながら学びを進めていくには、保護者との協調も欠かせません。1年生を預かる信枝先生は、毎日学級通信を書いて、子ども達がどのように学校で過ごしているかを保護者に伝えているそうです。

「私も子どもがいるのですが、やはり情報が届かないのが保護者として不安です。そこで毎日、良いことも悪いことも包み隠さず、学級通信で伝えるようにしています」。(信枝先生)

同校は、どの学年も1クラスのみの少人数で、今の1年生は32人に対して信枝先生と副担任2名の3名が、他の学年も担任と副担任の2~3名がつきます。多くの大人で子ども達を見守る体制が整えられていることが、このような手厚い指導につながっています。

少人数だから出来る、子どもに寄り添った学び

また、少人数であることの恩恵は、学校生活での様々な活動にももたらされています。その一例が1年生から設定されている宿泊行事です。

「本校では林間学校や臨海学校、スキー学校、農家に民泊する『ふるさと体験学校』など多彩なプログラムを用意しています。人数が少ないため、いずれの行事でも一人一役以上をこなしてもらいます。活躍の場がたくさんあり、前に出て発表するなどの経験を、どの生徒も積むことができますし、その中で自然と子ども達同士の結びつきは濃いものになります」と信枝先生。

田中校長も「高校生でも、附属小から進学してきた子達は、男女を超えた仲間意識を持っていると感じます。これも小学校の少人数の間に培ってきた感覚なのではないかと思いますね」と話します。

この深い結びつきは、学年を超えて育まれていると信枝先生は続けます。

「特に1年生と6年生の交流が多く、日々の掃除も縦割りで行っています。今日は今年度初めて6年生が1年生の掃除を手伝いに来てくれました。黒板の消し方やゴミの捨て方を一つひとつ丁寧に優しく教える姿が見られましたね。1月のとんど祭りでも6年生が1年生のためにお餅を焼いたり、火の調節の仕方を教えたりしてくれます。1年生に感想文を書いてもらうと、『お姉ちゃんが焼いてくれたお餅はおいしかった』や『お兄ちゃんはいたずらもしていました』なんて言葉が並んだりもします。本当に姉弟のような関係が、学校生活を通して出来上がっていきます」(信枝先生)。

信枝先生の言葉から、学校全体が大きな家族のような絆で結ばれている様子が目に浮かぶようです。一人っ子家庭や核家族が多い時代、このような温かな関係性を築けること、そしてそこから人とのつながり方を身につけられることは、何より大きな学びではないでしょうか。

まとめ

箕面自由学園小学校の1学年の募集人数は50名。それに対し2023年度の1年生は32名と、一見すると定員割れしていると考えがちな数値です。しかし実は、同校の倍率は1.5倍と大阪府の私立小学校の中で最も高い数値を誇ります。
この結果について、田中校長は「募集人数をうめるため、合格を出そうと思えば出せます。しかし、あらかじめ設定したラインに満たない場合は合格を出さないという選択をしています。そのため、数字だけ見ると定員割れなのに、倍率は高いという状況が続いています。これは授業や小学校としての質を保つためです」と説明します。

この対応からも、同校がいかに子ども達の教育について真摯に向き合っているかが垣間見えます。これも「我が子の学びのために」という保護者の思いから生まれた学校だからこそ。6年間安心して我が子を預けられる環境が、同校には整っています。

取材協力

箕面自由学園小学校

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箕面自由学園小学校