取材レポート

奈良学園小学校

『自ら生きて・活きる』を大切に、変わる社会に対応できる力を育む

奈良学園小学校の建学の精神は『自ら生きて・活きる』。『生きて』は、生きていく上で必要な知識やスキル、いわゆる目に見える学力のこと。『活きる』は、身に付けた知識やスキルを使いこなす力のことで、子ども達が大人になり、社会で生きていくときに一番必要となる、非認知能力とも言われる目に見えない力です。それらの力を子ども達にしっかりと身に付けさせることを目標に、同校では教育を展開します。

「ニューノーマル-新たな日常-という言葉がよく使われるようになってきました。同時に学校教育そのものも大きく変わることが求められています。こんな時期だからこそ、不易流行という言葉が示すように、学校として変えてはいけない不易の部分と変わるべき流行の部分を、しっかりと考え見定め、教育を展開していくことが大切です。」と話す校長の梅田真寿美先生に、コロナ禍を経て変わりつつある同校の教育についてお話をうかがいました。

奈良学園小学校校長 梅田真寿美先生のお話
梅田真寿美 校長先生

梅田真寿美 校長先生

奈良学園小学校校長 梅田真寿美先生のお話

不易な学びを大切に進める奈良学園型ハイブリッド授業

敷地内に菜園や田んぼ、果樹園などがあり、恵まれた自然環境の中にたたずむ奈良学園小学校。例年、年末頃に1年生は大きな大根を収穫するそうです。
「生活科の勉強で大根を育てて収穫します。生活科として生長の記録をとるだけでなく、図工や国語でも大根を題材に学びを展開します。図工では、大きな和紙に大きな大根を描きます。子ども達は目の前に大根を置いて、大きな葉や細かいヒゲまで全部、一生懸命描くんですね。そして、色を付けた後、余白の部分に収穫したときの自分の気持ちや自分が大根だったら何て言いたいかなと考えながら、色々な言葉を書き入れます。すると、『大きいだろう』『おもいぞ』『はやくたべたいなぁ』など、子ども達からあふれるように言葉が出てきます。こんな大きな大根を育てて、収穫して、絵を描いたという喜びが言葉となって表われる姿を通して、子ども達の言葉の力と感性が育っていることを感じます。体験と学びをつなぐという学び方を、子ども達に提供することがとても大切なことだと確認する取り組みのひとつです」(梅田校長先生)

また、同校は「書くこと」を非常に大切にしており、色々な思いや考えを文章にする機会も多く持ちます。丁寧な指導のもと、書くことが苦手な子も、書くスキルを身につけ徐々に書けるようになっていくのだとか。手を使いながら、子ども達が学びを自分の中に落とし込んでいく姿を見守り続けてきた梅田校長先生は、これからの学び方について、次のように考えているそうです。

「小学校時代に身体を通した学び方や理解する経験を積み重ねることができれば、その後にやってくる、デジタルを使いながらの様々な学び方であったり、そこから得られる情報であったりを、自分が納得して取捨選択しながら自らの学びにつないでいくことが出来ます。このベースの段階を無くして、いきなりデジタルだけで様々な学びを進める方法では、なかなか子ども達の本当の力を育むことは出来ません。デジタルとアナログ、対面と遠隔をうまく組み合わせ、奈良学園型ハイブリッド授業を展開している所です。学び方の中で変えてはいけないことと変わるべきことの両面を活用し、子ども達の学びをより充実させていくことを目指しています」

コロナ禍で得た学びを、いつもの学びに還元。2021年度から反転学習を本格導入

2020年度からの試行を経て、2021年度に新たに算数の指導に反転学習を取り入れました。反転学習とは、家庭で授業の予習動画を見てから、次の日の授業にのぞむ学習形態です。反転学習導入のきっかけは、コロナ禍での一斉休校にあるといいます。

「本校では、昨年の休校時にロイロノートやZoomを駆使し、全学年・全教科で学びの配信を行いました。保護者の方や子ども達の満足度は非常に高く、授業進度の遅れも通常時と比べて全くありませんでした。学校再開後も試行を続ける中で、算数の、特に数や計算を扱うような単元では授業動画による事前学習で、翌日の授業の説明がより理解しやすくなるということが分かってきました。そこで、休校時の学びの配信を通して、各ご家庭にも遠隔授業を進めるスキルをもっていただけた今、それを使い2021年度の本格導入に至りました」(梅田校長先生)

反転学習の効果について、以下のように梅田校長先生は話します。
「いわゆる一斉授業は、説明のレベルを理解度が真ん中あたりの子ども達に合わせる形で進めます。もっと難しい問題にチャレンジしたい子も、少し理解が難しい子もいるでしょう。事前に予習してもらうことで、通常授業時の理解にかかる時間が短くなり、より長く、練習や演習に時間が使えるようになります。その時間に、自分で発展問題にチャレンジしたり、タブレットで復習問題をしたり、理解できていない内容を教員から個別に教えてもらったり、一人ひとりに適した学び方で理解度を高める指導が行えるようになってきたのです」

現在、子ども達は配信された授業動画を宿題として見るほか、復習用にも活用しています。学校側では、様々な単元の様々な指導に活用できる授業動画を「学校にとっても財産」と保存し、色々な活用につなげようとしているそうです。

タブレットの活用で、学習の個別最適化を進める

反転学習と共に、一人ひとりに適した形の学習を提供するために活用されているのが様々なアプリです。英語では、「聞く・話す・読む・書く」の4技能を、技能ごとにレベルが設定できる『ATR CALL BRIX』を導入。子ども達は自分のレベルに合せてチャレンジすることが出来ます。

「特に英語は個人によって習熟度に差がつきやすい教科で、そのことが学習に向かう意欲にも影響してきます。適切なタイミングでアプリを活用する時間を設けることで、他の子と比べることなく、自分がしっかりと英語のスキルを身に付けていることを実感でき、意欲的に英語学習に臨む姿勢も継続できます」(梅田校長先生)

そして、同じく差が出やすい算数でも、『リアテンダントシステム』『Qubena(キュビナ)』の2種類の教材を使いながら、一人ひとりの理解をカバーしています。どちらにも取り組み結果の分析機能がついており、ただ「どこを間違えた」だけでなく、単純なミスなのか・理解が不十分なのかという間違いの傾向を明らかにし、より適した復習教材を子ども達に示してくれます。

「これらの教材は、不得意な所をカバーするだけでなく、より難しい問題にチャンレンジしたいという子どもの気持ちにも応えてくれます。このように、一人ひとりに合わせた学び方をする時間も積極的に取り入れています。目に見えない力を付けていくと共に、きちんと基礎学力を身に付けるということも大切に進めていきます」(梅田校長先生)

好調な大学合格実績と共に、多岐に渡る高校生の活躍を支える「4-4-4制」

奈良学園小学校では、2008年の創立当初から、小学校から高校までを4年ごとに区切りを設け、子どもの発達段階に合わせた「4-4-4制」のもと、12年一貫の教育を展開。2020年3月には小学校1期生が高校を卒業しました。小学校1期生の大学合格実績について、「小学校からの内部進学者54名の内、国公立大学医学部医学科の現役合格者が9名。ほか、難関国公立大学の合格者も多く、素晴らしい結果を残してくれました」と梅田校長先生は話します。

また、現役の高校生たちも多彩な活躍を見せてくれています。
「本校の正門を入ってすぐの所にビオトープがあるのですが、そこの自然再生を図ろうと、高校の自然再生研究会が、小・中学生も巻き込んで、藻を駆除したり、魚を放流したりするなど、活動しています。その様子を『日本水産学会春季大会高校生ポスター発表』で発表したところ、大会委員長賞をいただきました。ほかにも、発達障害の児童を支援するアプリ『ぶるとまくん』を発案し、『inochi Gakusei Forum』で最優秀賞を受賞、現在、アプリの実現化に向けて頑張っている生徒もいます。どちらのチームでも内部進学者が活躍してくれています」(梅田校長先生)

合格実績はもちろん、学校以外の場で力を発揮する高校生の姿が見えてきた時に、梅田校長先生は、期待していた以上に、目に見えない力が育まれていると実感したと話します。そして、この力の育みには「学び方を学んで、それを自分が使えるようになるというところまでを小学校時代に学べる、4-4-4制の効果が大きいのではないか。特に中学入学前の5・6年生の2年間が大きな糧となっている」と分析します。

同校では、Middleの1年目・小学5年生から教科担任制を導入。定期考査も開始します。

「4年生までは学級担任制のため、今日はこの宿題が出て、それを次の日までにやらなければいけないことが、皆分かります。しかし、教科担任制になると、教科ごとに出ている宿題を自分で把握して、予定を立てて取り組まないといけません。定期考査も始まりますので、定期考査に向けた計画も自分たちで考える必要が出てきます。自分たちで計画を立てられるように計画書も渡しますが、立てた計画の実行がまだ難しい子もたくさんいます。そこで、学級担任が一人ひとりの計画書をチェックして返すという非常に細やかなフォローを行うことで、計画する力を養っていきます。学級担任制を色濃く残した教科担任制の2年間を通して、今まで身に付けてきた学び方を使いこなすための力を子ども達はグッと上げていきます。中学校の教員からも、内部進学者はその力が身についているため、中学進学後の伸びが大きいと聞きます」(梅田校長先生)

学校最寄り駅までの送迎を導入し、ますます利便性が高まるアフタースクール

奈良学園小学校では、放課後も学内で子ども達が過ごせる「ならとみアフタースクール」を、2020年度から新しい体制で展開。新体制になったことで、家庭が受ける一番大きなメリットは、預かりや講座終了後、午後6時15分までに下校の場合は、学校最寄り駅までスクールバスや車で送ってもらえること。送迎先は学研奈良登美ヶ丘・学園前・高の原・JR祝園の4駅で、子ども達はいつもの通学路を通って、自宅最寄り駅まで帰ることができます。

「これまでは預かりと講座が別々で、駅までの送迎もありませんでした。しかし、今回、預かりと講座がつながったことで、単体利用はもちろん、組み合わせて利用することも出来るようになりました。駅までの送迎を導入したこともあり、利用される方も増えています」と梅田校長先生は話します。

預かりでは、毎日の宿題内容を把握しているスタッフが子ども達の宿題を見てくれるほか、無理のない範囲での安心できる素材を使ったおやつの提供もあります。ほかにも工作を行ったり、置いてあるパソコンを使ってプログラミングにチャレンジしてみたりと、子ども達が楽しく下校までの時間を過せる環境が整えられています。
「この預かりスペースは、1年生の教室の並びに設けられています。平行移動ですぐ行けると、とても喜んでいただいています」(梅田校長先生)

講座の数も増え、現在13講座を開講。チアダンスやバレエ、体操などの運動系に加えて、勉強系では定番の書道・そろばんのほか、パズル道場や算数・国語教室、ロボット科学、読解の基礎など、思考力の育みに適した講座も並びます。多い講座では40人ほどが参加。学校内で気心の知れた学友と様々な習い事に参加できることは、送迎の手間がないという保護者側の利点に加え、子ども達にとっても大きな安心感をもたらしてくれます。

登校班のほか、見守りスタッフも充実。 安心して通学できる体制を整備

梅田校長先生に登下校体制についてうかがったところ、以下のように返ってきました。
「本校は駅から少し距離がありますので、安心して学校まで来ていただけるよう、様々な配慮を行っています。学研奈良登美ヶ丘駅からは徒歩となりますが、1~4年生でグループを組んで、皆で並んで歩いてきます。一人で学校まで歩くことはないので安心です。教員のほか、地域の方にサポートに入ってもらい、見守り体制もしっかりと整えています」

また、学園前・高の原・JR祝園の3駅からはスクールバスを運行。バスの運転手のほか、添乗員も同行します。学園前駅では、改札口からバス乗り場までのスクールガードという見守りスタッフも配備。バスでは、例えば学園前駅でも大阪方面から来る子、西大寺で乗り換えて橿原方面から来る子と、通学コースごとに座席を固めて座らせているそうです。

「同じ方面の子ども達を全部グループにして、朝乗ってくる電車も何号車に乗りましょうとお約束しています。通学の途中でどんどん集まってきて、そのままのグループでバスに乗ることができます。いつも一緒という安心感が低学年の子ども達には生まれますし、4年生は自分がリーダーとして頑張らなくっちゃという責任感を持って、行動するようになります」(梅田校長先生)

電車通学の場合、どうしても避けられないのが、事故などで電車が遅延すること。このことに対しても、学校側は迅速に対応します。
「駅で事故があって、電車が遅れることがあったら、すぐに教員が駅に行きます。そこで待っていて、来ない子がいたら、スクールバスが待てる時間までは待つよう調整し、それが無理な場合は添乗員がそこで待ち、路線バスを使うなどして一緒に来てもらいます。保護者の方とも密に連絡を取り合いながら、一人ひとりに対応しますので、安心して来ていただければ」と梅田校長先生は話します。

まとめ

今回の取材を通じて、常に「これは児童のためになるのか」「どんな力を育めるのか」「変えるべきところはどこか、変えてはいけないところはどこか」を自らに問いつつ、教育を進めて行く学校側の姿勢が見えてきました。新しい指導法を学び、それを従来の教育と融合しながら使いこなそうとする教員の姿は、建学の精神「自ら生きて・活きる」が教員にも根付いていることを教えてくれます。

取材協力

奈良学園小学校

〒631-8522 奈良県奈良市中登美ヶ丘3丁目15-1   地図

TEL:0742-93-5111

FAX:0742-47-9922

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