取材レポート

奈良学園小学校

新校長が語る、認知能力と非認知能力をバランスよく育てる「ならがく」の教育

奈良学園小学校は新しい校長に、奈良市内の公立小学校・公立小中一貫校校長、奈良市教育委員会などで長らく教育に携わってこられた高塚佳紀先生を迎えました。文部科学省から派遣されてパキスタンの日本人学校で教鞭をとっていた時期もあるなど、多彩な教育経験を持つ高塚校長にめざす学校像をはじめ、同校の教育の特長や非認知能力を数値化する試みなどを語ってもらいました。

奈良学園小学校校長 高塚佳紀先生のお話
めざすのは、教室に一人ひとりの居場所がある学校
認知能力と非認知能力をバランスよく育てる
非認知能力を育てる「生活科」「宿泊学習」「体作り」
毎日少しずつ楽しんで体を作る仕組みを整える
非認知能力を数値化する『Ai GROW』を導入
基礎を徹底し、確かな学力を育む
取材を終えて
校長 高塚佳紀先生

校長 高塚佳紀先生

奈良学園小学校 校長 高塚佳紀先生のお話

めざすのは、教室に一人ひとりの居場所がある学校

4月に着任して約2カ月。忙しい日々を過ごす中でも、「子どもたちのそばになるべくいよう」と時間があれば授業を見に行き、出前授業にも一緒に参加している高塚校長。子どもたちを見守る際には、特に表情に気を付けて見ていると話します。

「授業を見る時も、後ろからではなく、斜め前から見て、子どもたちの表情や様子を見るようにしています。声掛けの際も必ず目を見て表情をチェックします。表情から子どもたちの今の心の状態をアウトプットしてもらっているという意識があるのです。しっかり受け止めていきたいですね」。

このように教員が子どもたちの表情を見ながら声をかけることや行動を認めて褒めることは、学校での子どもたちの居場所作りにもつながると高塚校長は言及します。

「私は自分が担任をしていた時から、子どもたちの居場所を教室に作ることを第一に考えてきました。それができれば、子どもたちは楽しんで学校に来られますから。特に私学である本校は校区がなく、幅広い地域から子どもたちが集まってきています。友達と遊んだりコミュニケーションをとったりする時間が、学校で過ごす今しかない子も多いでしょう。そう考えると学校での居場所の有無は、公立校より大事な問題です。子どもたちそれぞれの温かい場所を培うための声掛けを、校長として率先してやっていきたいと考えています」。

また、子どもたちの居場所作りには、教員が元気よく笑顔でいることも大事だと続けます。

「学校生活の中で教員がずっと怖い顔をしていると子どもたちも嫌でしょう。たまには厳しく𠮟ることも必要ですが、基本的には笑顔で温かい存在であってほしいと教員には伝えています。教員が太陽みたいに子どもたちを温められたら、ぽかぽかする学級になって、やがてぽかぽかする学校になって、それがお家の方にも灯って、地域の人に広がって、とそんなイメージで教育を進めていきたいと思っています」と高塚校長は熱く語ります。

認知能力と非認知能力をバランスよく育てる

次に、高塚校長に同校の教育方針や特長について伺いました。

高塚校長は「本校がめざす所は『20年後に活躍できる子どもたちを育てる』。これからの時代は今まで以上に色々な国の人と共に過ごすことが多いでしょう。子どもたちには人それぞれに様々な特性があることを理解し、自分の可能性を見出すと共に、様々な人と協働して持続可能な社会の創り手になってほしいと考えています」と述べます。

この目標を実現するために、同校が注目するのは「目に見える学力」と「目に見えにくい学力」です。

「学力には目に見える学力と、目に見えにくい学力・生きる力としての学力があります。目に見える学力は認知能力、簡単に言うとテストの点数などです。それに対して、目に見えにくい学力・生きる力としての学力とは、意欲や我慢する力、やり抜く力、人を思いやる力など、非認知能力と言われるもの。その双方をバランスよく育てていきます」。

非認知能力を育てる「生活科」「宿泊学習」「体作り」

同校が非認知能力を育てる取組として紹介するのは「生活科」「宿泊学習」「体作り」の3つ。まず生活科の学びについて、高塚校長は以下のように話します。

「例えば1年生の生活科ではザリガニを1人1匹ずつ育てます。育てる中で、その時々に思ったことをポートフォリオとして絵や言葉でまとめることで心の中を整理し、学びを振り返ります。めあてを立てて、活動して、振り返る。このサイクルを繰り返すことで学びへの意欲が高まり、自分の考えを言葉で表すことが好きになります。そしてよく観察するようになるなど、学び方も自然と身につきます。また、友達と一緒に取り組む活動も取り入れているので、コミュニケーション力や協働力の育成にもつながります」。
ザリガニの観察

ザリガニの観察

もう一つのキーワードである宿泊学習。非認知能力を養う上での宿泊学習の役割は多岐にわたります。

「本校では1年生から宿泊学習をします。宿泊学習ではお家の人がいないので、自分のことは自分でしなければいけません。特に低学年では服をたたむなど、身の回りの整理整頓を自分でできるように丁寧に指導します。また、現地での活動はすべてグループで行うので、わがままは言えません。協調性や規範意識を育むことにもつながるでしょう」。

宿泊学習でも現地で何を学ぶかを教える事前学習を行い、現地に行って体験・学習して、帰ってきてから事後学習として学びを振り返るサイクルを大事にしているとのこと。高塚校長は「6年生のハワイ宿泊学習では学びをそれぞれがポスターやパワーポイントにまとめ、尚志祭で発表します。宿泊学習を通して、学んだことを知識として蓄えるだけでなく、主体的に発信・実行する姿勢を育むことを大切に進めていきます」と語ります。
宿泊学習

宿泊学習

毎日少しずつ楽しんで体を作る仕組みを整える

文部科学省は、子どもの育ちの現状として「運動能力が低下している」「小学校1年生などのクラスにおいて,学習に集中できない、教員の話が聞けずに授業が成立しないなど学級がうまく機能しない状況が見られる」と指摘します。

子どもたちの集中力低下の原因には、運動不足により体幹を支える筋力が十分に育っていないことがあると言われています。同校でも子どもたちのそのような様子に危機感を感じ、以前より毎日少しずつ体作りをできる取組を進めてきました。

「始業前には体幹づくりのストレッチなどをします。ほか、空きスペースに輪がついた鉄棒を設置し、休み時間に子どもたちが自由に逆上がりやぶら下がりなどができるようにしています。また、昇降口にはボールを投げる動作を練習できる遊具も置いています。朝、坂道を登って昇降口に来ると、どの子もその遊具で練習をしてから入ってきます。ぐるぐる回るのが楽しいんでしょうね。ストレス発散にもなります(笑)。楽しみながら体幹を鍛えることで、良い姿勢をしっかり保ってくれたらいいなと思います」と高塚校長は笑顔を見せます。

子どもたちは目の動きを練習するビジョントレーニングにも日々取り組んでいます。

「教室が運動場での活動でぶつかる子が増えたと感じます。これもコロナ禍であまり外遊びができなかったり、走ったりできなかったことで、視野が狭くなってしまったんだろうなと。そこで、視野を広げるために左右や上下への焦点の移動を練習するビジョントレーニングを朝の時間にしています」。

このように短い時間ですが、体作りを重ねることで子どもたちの様子は明らかに変わってきたと言います。

「春に一人ひとりにマス目が描かれた板の前に立ってもらい写真撮影をしました。左右にゆがんでいる子、前後にゆがんでいる子が散見されましたが、1年後に撮影した時には皆まっすぐ立てるようになっていましたね。体幹を鍛えてきた効果が感じられました。このように姿勢が良くなると、きちんと椅子にも長時間座れ、授業への集中度も高まります。本校では体作りに取り組んできて、その効果を実感しています」。
室内の鉄棒

室内の鉄棒

ビジョントレーニング

ビジョントレーニング

非認知能力を数値化する『Ai GROW』を導入

一般的に目に見えないと言われる非認知能力。同校ではそれを数値化し評価するツール『Ai GROW(アイ・グロウ)』を、2023年度から4年生以上で導入しました。

「『Ai GROW』は評価項目に応じた質問に答えていくと、その回答からAIが個々の気質や能力を診断してくれるツールです。本人だけでなく、クラスメイトにも『その子がこういう場面でどういう行動を取るか』を答えてもらう相互評価システムを取り入れることで客観的な評価が得られる仕組みとなっています」。

2023年度は年3回実施し、子どもたちの能力や資質がどのように変化したかを、ある程度客観的に評価できたのではないかと高塚校長は感じているそうです。

今まで個々の強みは教員の勘でしか分からなかった所を、100%正確ではないかもしれませんが数値化できたと感じています。学年全体の傾向も確認でき、2023年度の6年生では柔軟性や教科の傾聴力が少しずつ高まる傾向があった一方、課題も見られました。その結果を教員に返し、日々の指導に役立ててもらいました。2024年度ではクラス運営や個々の指導により役立てたいと考えています」。

基礎を徹底し、確かな学力を育む

一方、目に見える学力を培うためには基礎を徹底する教育を展開します。

国語ではきちんと読めるようになることが大事と、音読の宿題ではロイロノートを活用し、家での音読の様子を動画で提出してもらい、教員が発音やつっかえを丁寧にチェックします。また、楽しく読書に取り組めるように、銀行の通帳のように借りた本を印字する読書通帳機を設置しているのだとか。本のタイトルがズラリと並ぶ様子が嬉しく、積極的に本を借りる子どもたちの姿が目に浮かぶようです。

算数では、計算力を鍛えるトレーニングを取り入れたり。5・6年生では習熟度別に分けて、授業を進めています。

「算数は理解度に差が出やすい科目ですので、個々の理解に沿った学びをできる体制を整えています。5年生以上では習熟度別・TT(チーム・ティーチング)指導を導入しているほか、理解に不安がある子には特訓講座(3年生以上)を、より発展的な勉強を希望する子には演習の時間(4年生以上)を、それぞれ放課後に設けています。また個別最適化学習ができるよう、AIドリルも導入しました」。
5年生-授業風景

5年生-授業風景

6年生-授業風景

6年生-授業風景

ネイティブ教員による英語の授業は、1~4年生では週2時間、5・6年生では週3時間を設定。英語学習では「Mind(伝えたい気持ち)」「Skill(伝える手段)」の2つを柱にしています。

「伝える手段はもちろん、何を伝えたいのかも大事。英語だけでなく他の授業や行事でも何を学んで何を伝えたいかを大事にしながら進めることで伝えたい気持ちを育んでいます。伝える手段の育成はフォニックスとコミュニケーションの2つに分けて展開しています。本校のネイティブ教員は2人とも長く勤めてくれているので、ノウハウがしっかり身についており、表情もとても豊か。楽しい授業をしてくれると評判です」。
ネイティブ教員の英語授業

ネイティブ教員の英語授業

取材を終えて

多彩な教育内容に加え、甲子園球場グラウンドの約2倍の面積を誇る天然芝のグラウンドや子どもたちが米を育てる校内棚田、種々の命が集うビオトープ、校舎屋上には本格的な天体望遠鏡が設置されるなど、恵まれた環境も奈良学園小学校の魅力のひとつ。

取材時には探検ボードを片手に校舎まで続くアプローチを自由に散策する子どもたちの姿が見られました。友達と連れ立って歩く子、自分の興味のままに土手を登る子、どの子も非常に楽しそうで、のびのびと学びを謳歌している様子が伝わってきました。

この恵まれた環境の中、同校では創立以来、子どもたちに寄り添いながら、確かな学力と学びに向かう力を育成する教育を展開してきました。附属の中高へ進学した子どもたちが国公立大学推薦入試で毎年のように合格を勝ち取っている事実は、同校の環境と教育の素晴らしさを物語っているのではないでしょうか。

また、完全自校調理の給食、安全なスクールバスや登校班体制の確立、お預かりだけでなく幅広い講座が受講でき、長期休暇も対応してくれるアフタースクールなど、保護者へのサポートも充実し、多忙の家庭でも安心して通わせられる体制も整えられています。

まずは一度、関西私立小学校随一と謳われる環境を体感しに学校を訪れてみてはいかがでしょうか。
天然芝のグラウンド

天然芝のグラウンド

取材協力

奈良学園小学校

〒631-8522 奈良県奈良市中登美ヶ丘3丁目15-1   地図

TEL:0742-93-5111

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