取材レポート

追手門学院小学校

「真の国際人」を育てる国際教育センターが始動。学内外に向けた様々なプロジェクトを展開する

1888年の創立以来、教育理念「社会有為の人材育成」のもと、「敬愛・剛毅・上智」の教育目標を掲げ日々の教育活動を行う追手門学院小学校。世界で活躍する「真の国際人」を育てるべく、2022年に国際教育センターを設置し、「世界・グローバル・宇宙・人間」をキーワードに様々なプロジェクトを展開します。西日本で最も古い歴史を持つ伝統校でありながら、常に最先端の教育を追い求める同校の「伝統と革新」の教育について、学校長の井上恵二先生にインタビューしました。

追手門学院小学校 校長 井上恵二先生のお話
真の国際人を育成するための2つのプロジェクトが始動
宇宙飛行士・野口聡一さんを招いての講演会
50年に渡る英語教育のノウハウを共有する学外向けセミナー
中島さち子さんを始め、著名人・卒業生を招いたセミナーを実施予定
体験から疑問を覚え、自ら学び始める姿勢を育む
まとめ
校長 井上恵二先生

校長 井上恵二先生

追手門学院小学校 校長 井上恵二先生のお話

真の国際人を育成するための2つのプロジェクトが始動

追手門学院小学校では、グローバル社会で活躍できる人材の育成を目的とする国際教育センターを2022年に設立しました。コロナの影響もあって、アメリカ本土へ行くSUN(Silicon Valley・United Nations・NASA)プロジェクトは実現しませんでしたが、目的の達成に向けて立ち上げられたのが「日本再発見プロジェクト」「宇宙未来プロジェクト」です。

「日本人として国際社会で活躍するためには、自分が生まれ育った日本の伝統や文化について深い知識を持ち、話せるようになる必要があります。『日本再発見プロジェクト』では、2022年度は6月に奈良、10月に京都へ赴き、世界遺産に指定されている寺院をめぐり、写経や座禅、水墨画、日本庭園の鑑賞などの体験に参加しました。また、2月には大阪市の大槻能楽堂を訪れ、能楽の体験をしました。古くから受け継がれてきた日本文化に触れられたと好評で、保護者から『私が行きたかった』というお声もいただいています。4年生以上の希望者対象ですが、毎回参加する子も少なくありません」。

もう一つの「宇宙未来プロジェクト」では、JAXAの協力のもと、宇宙服や宇宙食、ISSの模型などを展示する「追手門宇宙スペース」を2週間限定で開設したほか、研究員を招いて宇宙航空技術を生かした風水害の予知や研究についての特別講演を開催。12月には、4年生以上の希望者を対象とした国内STEAM研修旅行も実施したそうです。

「国内最先端の科学技術やSTEAM教育に触れることが子どもたちの視野を広げると考え、研修旅行を企画しました。JAXA筑波宇宙センターや日本未来科学館の見学のほか、JICAの施設ではウガンダで支援活動をされていた方の講演を聞いたり、体験型英語学習施設・TGGではグローバルトラベルをテーマに旅行中に使う英会話をロールプレイ形式で学んだりするなど、多岐にわたる活動を行いました」。

宇宙飛行士・野口聡一さんを招いての講演会

これらの活動の締めくくりとして、2月に宇宙飛行士・野口聡一さんの講演会が全児童を対象に行われました。講演会について、「宇宙船の中で過ごした経験を振り返って、チームワークの大切さを話していただいたほか、夢を持つこと、幅ひろい経験をすること、何事にも挑戦することなど、たくさんのメッセージを頂きました」と井上先生は説明します。

講演の後、自分の夢についてのアンケート調査を全学年で実施したところ、ろいろな学年で「宇宙飛行士」という回答が見られたそうです。井上先生は「本校には宇宙飛行士を目指せる素質を持った子がいると思っています。今回の講演で、宇宙飛行士を目指したいと考える子が増えてくれたことはうれしいですね」と笑顔を見せます。

以前の取材でも卒業生から宇宙飛行士になる人が現れてほしいと語っておられた井上先生。どうして、宇宙飛行士にこだわるのか伺ったところ、次のように返ってきました。

「宇宙飛行士は、何か別の職業に就いている人も目指せる職業だからです。そのことを知ってもらうため、コロナ禍中のテレビ朝礼では、『この人は医師』『この人は整備士』などと歴代の宇宙飛行士の経歴を紹介しました。子どもたちには、どんな職業であれ、学びや挑戦を続けることで最初に就いた職業からステップアップできることを知ってほしいし、いつまでも夢を持って追いかける意欲を持ってほしい。その意欲は変わりゆく社会においても非常に大切だと思います」。

50年に渡る英語教育のノウハウを共有する学外向けセミナー

国際教育センターでは学内向けの取り組みだけでなく、学外に向けたセミナー等の実施も計画しています。まず6月には追手門学院大学国際学部の松宮新吾教授を招き、「小学校の先生のための英語指導スキルアップ講座」を開催する予定だとか。

講座を開催するに至った経緯について、井上先生は「2020年から公立校でも外国語教育が必修化となり3年目。現場の先生が指導していく中で困ることや、『子どもたちを本物のアメリカの文化に触れさせてあげたい』と思うこともあるでしょう。本校は50年に渡る国際交流の経験があり、ノウハウも持っています。先生方の様々な思いに応えられるのではないかと思い、講座を企画しました」と話します。

今回講師を担当する松宮教授は英語教育学を専門とし、大阪府下の複数の市の教育委員会とも連携しながら、英語教育の推進に携わってこられた方。実践的な英語教育のノウハウを豊富に持っているため、講座をシリーズ化することになりましたと井上先生。

「講座には既に約60名の申し込みがあり、そのうち約50名は公立校の先生で、東京から来られる方もいらっしゃいます。次回の松宮先生の講座は10月と2月に予定していますが、それ以外でも英語を指導する先生方が定期的に集まり、様々な話をできる時間を持ちたいと思っています。このような交流が子どもたち全体の英語力の底上げに微力ながらつながればうれしいですし、多くの方に本校の存在を知っていただく良い機会になるのではないかと期待しています」。

中島さち子さんを始め、著名人・卒業生を招いたセミナーを実施予定

国際教育センターの今後について、「今まで講演会やセミナーなどは学校内で企画していましたが、遠足など学年特有の行事以外は同センターに企画業務を移管しようと考えています。グローバルに活躍する日本人の育成を目指す部署だからこそ、なにか面白いことができるのではないかと期待しています」と井上先生は話します。

学内向けとして、来年2月には中島さち子さんを招いての保護者向けセミナーや、子どもたちを対象に現在医師をしている卒業生などを招いての講演も検討中だそう。

「ジャズピアニストの中島さち子さんは東京大学を卒業され、数学オリンピックのチャンピオンでもありSTEAM教育の専門家でもあります。子育てへのSTEAM教育の取り入れ方などをテーマにお話ししていただく予定です。これらのセミナーや講演会が、保護者がより楽しく子育てに向かい合うきっかけになればと思っています」。

体験から疑問を覚え、自ら学び始める姿勢を育む

取材後に、私立小学校の見学に東京に行くと話す井上先生。その目的は、理科室だそうです。

「その学校は、恐竜の骨を展示する博物館が学内にあったり、独自の理科検定をされていたりと様々な面白い取り組みをされています。理科主任と一緒にそれらを見学させていただき、勉強させてもらおうと思っています。理科が好きになる環境を整えたいと、本校も理科室の展示を工夫し、今は理科室前廊下の天井には星座を描くなど少しずつ変えてきましたが、今回の見学をもとによりアップデートできればと考えています」とワクワクした様子で井上先生は語ります。

先生自身がとても学ぶことに対して意欲的なことが、その様子から伝わってきます。そのことを井上先生にお伝えすると、次のように返ってきました。

「私自身、知らないことがまだまだ多く、実際に『見たい』『人と会ってお話したい』と思っています。やはり人でも物でも実際に触れることで、奥行きが感じられます。もちろんオンラインでも学んだり、人とコミュニケーションを取ったりすることはできます。しかし、画面に見えている部分以外の様子や肌触りなど、やはり実際に見たり話したりすることでしか感じられないことは多い。五感を使って体験することは非常に大事ですし、その体験から疑問を覚え、自ら学び始めるというのが本当の教育だと考えています」。

続けて、井上先生は2022年に発表された厚生労働省・文部科学省による21世紀出生縦断調査※での結果にも言及します。

「調査から小学校の時の体験、特に自然体験や文化的体験がその後の人生に多くの影響を与えるという結果がはっきりと出ました。もちろん学問は大事ですが、この結果を見て、子どもたちを社会に送り出す時に学問以外の様々な経験をさせていくことが必要なのだと再確認しました。これからも学校内だけでなく国際教育センターとも連携しながら、充実した体験活動を提供していきます」。

※2001年に出生した子の実態及び経年変化の状況を継続的に観察する調査のこと

まとめ

先日、同校では体育大会が行われました。4年ぶりに全学年での開催、入場者の制限もなかった体育大会で、3500人にのぼる観客が集まったそうです。

「多くの人が見に来て下さり、従来のような壮観な景色が見られました。追手門の復活だと感じ、これからも頑張っていこうという気持ちになりました」と井上先生は語り、次のように続けます。

「子どもたちは先輩の姿を見て来年の自分に思いを馳せ、観客は体育大会の模様を後日どなたかにお話ししたりする。内にも外にも本校の伝統の教育が伝承していきます。この伝承から、『じゃあ一度追手門を見に行ってみようか』と思われた方のお子さんが本校に入学されて、また伝統が受け継がれていく。この循環がコロナで途絶えなくて本当に良かったと思います」。

創立から135年に渡り受け継がれてきた伝統は、実際に目にして肌で感じることで、よりその価値を深く知ることができます。この秋の文化祭も従来通りに開催するとのこと。同校の伝統の教育を体感しに、足を運んでみてはいかがでしょうか。

取材協力

追手門学院小学校

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