取材レポート

追手門学院小学校

スタンフォード大での研修や西大和学園中との21世紀型特色入試推薦制度締結。多方面に進化する追小

関西有数の進学校として知られる追手門学院小学校では、毎年多くの子どもたちが外部の難関中学校へと進学します。同校では独自の指導で中学入試を突破する高い学力を養うほか、未来につながるスイッチとなる様々な体験を多く提供することで、子どもたちの学びに向かう意欲を育んでいます。アメリカ・シリコンバレーで最先端の学びを得る「SUNプロジェクト」などの同校国際教育センターが展開する活動や伝統校だから提供できる体験、西大和学園中学校との推薦制度について、校長の井上恵二先生に聞きました。

追手門学院小学校 校長 井上恵二先生のお話
未来につながる多彩な活動を展開する国際教育センター
追小だから実現したシリコンバレーでの特別な体験
伝統校だからできる安心なサマースクール
将来につながるスイッチをひとつでも多く提供したい
西大和学園中の21世紀型特色入試において推薦制度設定
まとめ
校長 井上恵二先生

校長 井上恵二先生

追手門学院小学校 校長 井上恵二先生のお話

未来につながる多彩な活動を展開する国際教育センター

追手門学院小学校は子どもたちの未来の選択肢を今以上に増やすため、2022年度に国際教育センターを立ち上げました。同センターでは「世界」「グローバル」「宇宙」「人間」の4つのキーワードに基づいた多彩な活動を展開しています。キーワードに込められた思いについて、井上恵二校長は次のように説明します。

「地理的・文化的に区分けされた国が集まる『世界』。国を超え地球全体を1つの単位とした『グローバル』。それぞれの視点を子どもたちが養い課題に取り組む力を伸ばしてほしいと、まずこの2つをキーワードに掲げました。そして今後、民間人が宇宙に行く時代が高い確率で来ます。見上げた空の向こうも考えていける人をという思いを込めたのが『宇宙』です。一方で、科学が高度に発展した時代でも求められるのは人間力。人だから感じる・できる部分をもっと大事にしていきたいと『人間』を4つ目に入れました」。

同センターとしてまず取り組んだのが、日本人としての知識を備えることです。「やはり『世界』『グローバル』という視野を養うには自分が生まれ育った日本の伝統や文化について知ることが必要だ」と井上校長。「日本再発見プロジェクト」と銘打ち、昔ながらの生活を体験できる里山体験、京都の世界遺産の指定を受けた寺院での庭園観察や座禅・水墨画体験、大阪市の大槻能楽堂を訪れての能楽体験を2023年度は実施しました。

「特に能楽体験は好評でした。本校の卒業生が能楽師になっており、その縁で実際の舞台に立たせていただいたり、道具に触れたりすることができたのです。舞台に松が描かれている理由や、なぜ舞台ではあれほど音が響くのかなど、たくさんの知識を得た子どもたちの目は輝いていましたね。このように日本人ならではの感性を磨く体験だけでなく、かまどを使って自らの手でお米を炊く里山体験も2023年度は設けました。昔があって今があるのだと理解できる創造力を育むことの大事さを感じる体験となりました。日本人として自信を持って日本を語れる体験を提供できていれば嬉しいですね」。

追小だから実現したシリコンバレーでの特別な体験

同センターで設立時から計画されていた体験のひとつにSUNプロジェクトがあります。SUNプロジェクトとは、世界のトップ産業が集まるシリコンバレーや国連、NASAの訪問、スタンフォード大学で開催されるSTEAMキャンプ研修など、世界を牽引する本物を体験する研修ツアーのこと。プロジェクト名は、「Silicon Valley/STEAM」「the United Nations」「NASA」のそれぞれの頭文字から取られており、目指すのは「世界基準でモノを考え、夢を抱くことができる子どもの育成」です。

2022年度に実施が予定されていましたが、新型コロナウィルス感染症の影響があり、ようやく2024年度に実施できる運びとなりました。日程の関係上、今回はスタンフォード大学でSTEAMキャンプ研修、GoogleやAppleの本社見学、医療系ベンチャー企業でのラボ見学・実験体験の3つを予定しているそうです。

「STEAMキャンプ研修にはゲームデザインやロボット製作、3Dプリント技術、VRデザイン、アニメーション制作など、いくつかのコースがあり、その中から好きなコースを選択して参加します。小中高生を対象にしたプログラムで、世界各国の子どもたちが参加します。指導はすべて英語で、既にオンラインでの事前学習もスタートしています。ラボ見学・実験体験で訪れる医療系ベンチャー企業のCEOを務めるのは本校の卒業生。山中伸弥教授の研究室で長らく研究をし、iPS細胞による治療を気軽に受けられる社会をつくりたいと起業されました。卒業生の起業家精神や最先端の技術に触れられることは、子どもたちにとって大きな刺激となると期待しています」。

伝統校だからできる安心なサマースクール

これらの新しい体験に加えて、40年近く前から実施されている福井県・大野カントリースクールでの自然体験の良さにも、井上校長は触れます。

「化石探しをしたり、清涼な谷川で遊んだり、満天の星空を眺めたりと、自然の中に放り込むという表現がぴったりな体験。夜には白い布に光を当てて、虫を集めるのです。大阪では考えられないような多種多様な昆虫が集まってくるので、それを現地の昆虫博士が解説してくれます。最終日には、城下町で行われる朝市で買い物をします。毎年スイカを買う子が絶対いて、帰りのバスの中でそのスイカが割れて匂いが充満することも(笑)。それもまた、子どもたちにとって得がたい体験になるでしょう」。

化石や昆虫、天文を教えてくれるのは、大野地球科学研究会などに所属するその道の達人。教員経験がある人も多く、皆、大野の自然を守ることに情熱を傾けられているのだとか。その思いに触れることは子どもたちにとって大きな刺激となるでしょう。

このような自然体験は昨今多くの民間業者でも行われていますが、様々なトラブルも起きており、参加に不安を感じる保護者も多いと思います。その点について井上校長は「この体験は私が勤め始めた36年前にはもう何度か実施されていましたので、大野の方とは40年に及ぶお付き合いが続いています。学生バイトではなく、信頼関係が結ばれている方々にお任せできるのは、本校の伝統がなせる技だと思います」と語ります。

将来につながるスイッチをひとつでも多く提供したい

このように多くの本物に触れる機会を設定している同校。中には小学生にはまだ完全に理解することが難しい学びもあることでしょう。しかし、今分からなくとも将来につながるスイッチを小学校時代に置いておくことに意義があると井上校長。「やはり6~12歳の6年間は人格形成で一番大事な時期。そこで入ったスイッチは、どこかで行動につながったり、鋭い感覚を養ったり、学びのきっかけになったりするからです」と説明します。

井上校長のこの言葉を裏付ける調査結果が、厚生労働省・文部科学省による21世紀出生縦断調査からも読み取れます。21世紀出生縦断調査とは2001年・2010年に生まれた子どもを対象に、成長や発達、生活環境の変化を長期にわたり追跡・観察した統計調査のこと。2020年の学習指導要領の改訂に向けて、目指す子ども像を作るための調査の一環として行われました。

「2022年に公表された結果から、自己肯定感が高い子は子ども時代にお手伝いや外遊びをよくしたことが分かってきました。この結果を受けて、実体験の重要性が見直されるようになったのですね。本校も学校として、子どもたちに特別な体験をたくさんさせていきたいと考えています。希望者参加型の体験以外にも、宿泊学習やJAXAの研究員を招いての出前授業、異学年活動を意欲的に行うなど、日々の学校生活で刺激を受けられる機会も本校には多くあります。加えて、2024年度からは宿泊学習を3年生でも行うことにしました。たくさんの実体験を通して、挑戦力・探究力・表現力を育てていきます」。

西大和学園中の21世紀型特色入試において推薦制度設定

併設中学校に内部進学をする子のほか、外部中学校に進学する子も多数いる同校。2023年度の外部進学先には、灘や甲陽、東大寺学園、大阪星光学院、高槻、四天王寺、清風南海などの難関校の名前が連なります。中学受験を突破する高い学力を培う教育について、井上校長は次のように説明します。

「すべての学習の基礎となる『読み・書き・計算』の徹底には、手を動かす伝統的な指導に加えて、ICTを活用しています。2024年度からは個別最適化学習ができるアプリも導入しました。また、中学につながる高いレベルの授業を展開するために、専門教員による教科担任制を4年から国語・算数、5・6年生では国語・算数・社会・理科で採用。6年生では4教科で進学希望に応じたコース別クラス編成にしており、遅くとも2学期初旬までには小学校の学習内容を終えて中学進学に向けての学習できるよう時間を確保しています」。

同校では以前より甲南中学校や小林聖心女子学院中学校と協定校提携を結んでいましたが、2024年度から西大和学園中学校への21世紀型特色入試においての推薦制度も始まります。西大和学園中学校は東京大学への進学者数も全国有数で、関西でも最難関校と呼ばれる学校のひとつ。推薦制度を結べることは、同校で6年間学んだ子どもたちの学力・人間力への高い評価の表われではないでしょうか。

まとめ

今回の取材では同校が提供する様々な体験について話を伺いました。多方面で活躍する卒業生と連携した体験教育、安心できる専門家による自然体験など、いずれも長く真摯に教育に取り組んできた伝統校だから提供できるものだと感じました。このような子どもたちの学力・人間力を育む教育に加え、2025年度からは長期休暇中のお預かりもスタートし、共働きの家庭でも通わせやすい環境がより充実する予定です。伝統と革新を合い言葉に、常に多方面に進化していく同校の教育に期待が高まります。

取材協力

追手門学院小学校

〒540-0008 大阪府大阪市中央区大手前1-3-20   地図

TEL:06-6942-2231

FAX:06-6946-6022

URL:https://www.otemon-e.ed.jp/

追手門学院小学校