取材レポート

帝塚山小学校

総合学園ならではの充実した人的環境のもと、「根っこ」を育てる教育

学校創立時からの英語授業のほか、情報を科目として設置し、1年生からプログラミングを学ぶなど、先進的な取り組みで知られる帝塚山小学校。それらの新しい取り組みのベースには、「根っこ」を育てるという教育方針があります。

1984年から35年にわたって子ども達を見守り続けてこられた野村校長先生に、創立時から変らない学校の目指す姿と子ども達への思いについて、お話を伺いました。


校長 野村 至弘 先生

校長 野村 至弘 先生

実体験を大切にする教育で育まれる“根っこ”

本校では「根っこ」を育てるという教育方針のもと、特に“本物に触れる”という経験を大切にしています。例えば、全学年で実施している自然体験活動。単にどこかに行って一泊して帰ってくるだけでなく、必ずその土地ならではの自然や歴史に触れられるプログラムを取り入れています。

1年生で行くのは、奈良と三重の県境にある御杖村。自然がとても豊かで、いわゆる里山が広がっている所です。山があり、きれいな川が流れ、虫や鳥などたくさんの生き物に囲まれた環境で、思いっきり遊ぶ。最初は躊躇する子どももいますが、すぐに慣れ親しんでくれますね。そして、川に入り、泳いでいる魚を捕まえて、焼いて食べるという経験もします。
生きている魚を串に刺して焼く。一見、残酷に思えるかもしれません。しかし、この経験を通して、食べるということは自然から命をいただいているんだという大切な学びを子ども達は得られるでしょう。

通常の授業でも、本物に触れる機会を積極的に設けています。美術の授業では、4年生以上を対象に美術館見学を実施。年に1回以上、歩いて10分ほどの所にある大和文華館に足を運び、学芸員の話を聞きながら、国宝を始めとする収蔵品をじっくりと観てもらっています。

本物に触れることは、子どもたちが大きく育っていくために必要な根っこの部分を養うのに、とても重要な役割を果たしてくれると思います。様々なことを学び、吸収していくことで、根っこが広がり、太くなり、さらに広がっていく。自分で自分の可能性を広げていって欲しいという思いのもと、実体験を重要視する教育を、これからも続けていきます。
1年生 御杖村

1年生 御杖村

“お知らせ”で培うプレゼン力と研究する喜び

1年生の御杖村以降も、2年生は赤目渓谷、3年生は琵琶湖で自然体験活動を行います。低学年での活動の積み重ねが、4・5年生の臨海学舎、6年生の乗鞍・上高地での林間学舎に繋がるように、系統立てて進めています。この6年にわたる取り組みの総まとめとなるのが、6年生で書く「自然環境」をテーマにした卒業論文です。

卒業論文は400字詰めの用紙30枚ほどに及ぶ大作。ここで発揮される“自分の考えを相手に理解してもらう”という、いわゆるプレゼン力の育成に一役買っているのが、1年生の頃から実施されている“お知らせ”です。

“お知らせ”は、身近で見つけたものを持ってきて、それを自分の分かる範囲で紹介する活動のこと。秋だと、落ち葉やどんぐりなどを持ってきて、木の名前や色についてクラスの子ども達に分かるように伝えます。そして、子ども達はそれを聞いて持った疑問を、発表者にぶつける。
そういったやりとりを1年生から行っているんですね。だから、人に分かるように伝えることについて、かなりの経験を積んでいる。それが、卒業論文での言葉で表現する力に繋がっているのではないかと思います。

この“お知らせ”は、本校創立時から受け継がれている我が校の伝統的な教育です。低学年に理科と社会の教科がまだあった時代から、理科でもない、社会でもない、そして国語でもない。どんな教科にも属さない“お知らせ”を進めてきました。生活科が導入された時に、この“お知らせ”とぴったり重なると、他校から先生が見学に来られたこともありました。

“お知らせ”は朝の会で行うのですが、例えば、ザリガニを持って来た子がいたとします。子ども達同士のやりとりの中で、もっとじっくり観たいな、となるんですね。そうすると、朝の会の時間だけで収めるのではなく、教科の時間を使って、じっくりと観てもらいます。グループに1匹ずつザリガニを用意して、グループみんなで同じ物を観察し、分かったことをお互いに出し合ってもらう。
発見する力や観察する力、発表する力などが養われ、子ども達一人ひとりが研究する喜びに目覚める機会となります。我が校の教育にとって“お知らせ”は、とても大切な時間です。
2年生 赤目渓谷

2年生 赤目渓谷

“お知らせ”

“お知らせ”

“お知らせ”

“お知らせ”

教員と子どもたちの距離が近い、温かい学校作り

本校の建物は木をたくさん使った作りで、来校者からも木の温もりを感じると好評です。その校舎と同じように、温かみのある学校でありたい。特に、教員と子ども達の関わりを多くすることを重視し、できる限り、担任が子ども達と一緒に過ごすようにしています。休み時間も担任が子ども達の中に入って、大暴れしていますよ(笑)。

学年が進んでくると、子ども達の悩みも多岐に渡ってきます。本校では、1年生から担任だけでなく、専科の教員が加わり学年ごとの学年担当というチームを編成。高学年の女の子だと、男性の担任に相談しにくいことも出てくるでしょう。そういう場合に備え、学年担当に必ず女性教員を1人は入れ、相談しやすい環境を作っています。

学年担当だけでは解決しづらいことについては、カウンセラーを交えて対応するなど、子ども達の悩みに温かく対応できる体制を整えています。

学校間の連携から生まれる充実した教育体制

色んな私立小学校がある中で、幼稚園から大学までが一つの敷地に集まっている学校は多くはありません。ご存じのように、本校はこの学園前の地にすべてが揃っている。そのアクセスの良さを生かし、学校間での連携に特に力を入れています。先日も、本校の国際交流部(英語クラブ)が系列幼稚園の子ども達に、英語の絵本の読み聞かせを行うという活動を行ったばかりです。

大学との連携も深いですね。夏の花火大会、秋のバザーなどには大学生ボランティアが参加。子ども達と遊びながら、運営を手伝ってくれます。大学の水泳サークルには、水泳の授業の補助もお願いしています。
初心者の場合、手を持ったり、足を持ったりしてもらいながら練習する中で泳ぎ方をマスターしていくので、教えてくれる人が多い方がいい。1年生の時に泳げなかった子が、学校の授業だけで5年生の臨海学舎では1kmを泳ぎ切ることができるようになるのも、キメ細かいフォローがあってのこと。

毎年、大学の先生や学生による食育の授業もあります。やはり、授業に大学生が加わってくれると、子ども達は年齢が近い分、身近に感じるのでしょう。内容にとても興味を持ってくれますね。学生側も楽しい仕掛けを用意して、全力投球で授業してくれます。学校の枠を超えて、交流し合えることは総合学園ならではの利点ですね。
学生水泳授業

学生水泳授業

大学との連携授業(食育)

大学との連携授業(食育)

取材を終えて

「子どもは学園の宝である。その学園の創始者から受け継がれてきた言葉を大切に、子ども達をしっかりと見守っていきたい。決められた勉強を行うだけでなく、身体や気持ちの面でもサポートし、温かい雰囲気で学校作りをしていきたいと考えています」。そう、最後に野村校長先生はお話されました。

子ども達自身の気づきを大切にし、子ども達のチャレンジを、教員だけでなく学園に携わる多くの人々が豊かな愛情を持って見守り、人として大きく育っていくために必要な「根っこ」を養う帝塚山小学校の教育。土中に根っこをしっかりと張った子ども達は、在学中はもちろん、卒業後も色々な学びを浴びて枝葉をぐんぐん伸ばしていくことでしょう。
学校創立時から行われてきた伝統ある教育が、様々なことが変わりゆくこれからの時代に求められる教育と合致していることを感じた取材となりました。

取材協力

帝塚山小学校

〒631-0034 奈良市学園南3-1-3   地図

TEL:0742-41-9624

FAX:0742-41-9634

URL:https://www.tezukayama-e.ed.jp/

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