帝塚山小学校
多彩な行事を通して、子ども達の絆を深め、学びへの前向きな姿勢を育む
帝塚山小学校は、開校以来、「考える子どもを育てる」「心を磨き共感力を高める」「本物にふれ可能性を広げる」を3つの柱に、子どもの「根っこ」を鍛える教育を展開してきました。その教育の中で重要な役割を果たしているのが多彩な行事です。同校の行事を通して、どのように子ども達は成長するのか。校長の野村至弘先生の話から紐解きます。
帝塚山小学校校長 野村至弘先生のお話
帝塚山小学校校長 野村至弘先生のお話
- クラスが1つとなって取り組む学習発表会
- 本物にふれる経験が、学習意欲へ良い影響を与える
- 子ども達が大好きな国内留学プログラムを6年生にも拡大
- 学習面・学校生活面の両方に良い影響がある完全教科担任制
- 取材を終えて
校長 野村至弘先生
帝塚山小学校校長 野村至弘先生のお話
クラスが1つとなって取り組む学習発表会
多彩な行事を通し、子ども達の「根っこ」=「生きる力」を育んできた帝塚山小学校。コロナ禍のため、ここ数年できなかった行事も2022年度は再開することができました。「久しぶりに行事をできたことで、改めてその教育的価値を痛感した」と野村校長。先日あった学習発表会を例に上げて説明します。
「学習発表会は本校の一番大きな行事で、1年間の学びを劇という形で発表します。劇の台本は、担任がクラスの雰囲気に合わせて書きますが、練習を進める中で、子ども同士が話し合いながら台詞を変えたり付け足したりしていくので、最後には台本がまるっきり変わっていることもあります。演技だけでなく、小道具なども子どもの手で作ります。皆が真剣に取り組むので、時にはぶつかり合うこともありますが、それを乗り越え、クラスがひとつとなって作り上げた劇は、そのクラスの雰囲気が色濃く反映されたものになります。このように学習面だけでなく、クラスとしての1年間の集大成であることが、学習発表会の教育的価値の1つめです」。
「学習発表会は本校の一番大きな行事で、1年間の学びを劇という形で発表します。劇の台本は、担任がクラスの雰囲気に合わせて書きますが、練習を進める中で、子ども同士が話し合いながら台詞を変えたり付け足したりしていくので、最後には台本がまるっきり変わっていることもあります。演技だけでなく、小道具なども子どもの手で作ります。皆が真剣に取り組むので、時にはぶつかり合うこともありますが、それを乗り越え、クラスがひとつとなって作り上げた劇は、そのクラスの雰囲気が色濃く反映されたものになります。このように学習面だけでなく、クラスとしての1年間の集大成であることが、学習発表会の教育的価値の1つめです」。
もう1つは本当の意味での総合学習であることだと野村校長は続けます。
「まず台本を読むこと自体も学びですし、そこから何を感じるかという読解力、感じたことをどう表すかという表現力の育みにもつながります。舞台転換をパソコンの映像を使って行っているクラスもありました。劇を作り上げていくことは、いろんな学びを合わせた総合学習だと感じています」。
この行事を通して、子ども達は非常に満足感を感じてくれると野村校長は話します。
「衣装や小道具、舞台の背景となる絵も全部自分達の手で作り上げて、それを他の児童や保護者に見てもらいます。すると拍手があったり、思わぬ所で笑いが取れたりと反応があるわけですね。自分たちが主体となってやったことに反応を貰えることで、本当に『やった!』という気持ちを持つようです」。
「大きな拍手がもらえて、心がポカポカした」「褒めて褒められて、そして、最高の笑顔で終われた」「本番が成功した嬉しさと、終わってしまった寂しさが混ざっている」など、終了後に寄せられた児童の感想からも学習発表会に取り組むことで得るものがたくさんあったことが分かります。
学習発表会は教員にとって負担が大きく、数年に一度ある行事の見直しの際に取りやめにしようかという話も出るそうです。それでも「やっぱり子ども達の成長のためにやろう!」と今の形で40年以上続いてきました。その教員の熱い思いがあるからこそ、子ども達も真剣に打ち込めるのでしょう。この経験は、子ども達の「根っこ」をより大きく伸ばす大切な一助となっています。
「まず台本を読むこと自体も学びですし、そこから何を感じるかという読解力、感じたことをどう表すかという表現力の育みにもつながります。舞台転換をパソコンの映像を使って行っているクラスもありました。劇を作り上げていくことは、いろんな学びを合わせた総合学習だと感じています」。
この行事を通して、子ども達は非常に満足感を感じてくれると野村校長は話します。
「衣装や小道具、舞台の背景となる絵も全部自分達の手で作り上げて、それを他の児童や保護者に見てもらいます。すると拍手があったり、思わぬ所で笑いが取れたりと反応があるわけですね。自分たちが主体となってやったことに反応を貰えることで、本当に『やった!』という気持ちを持つようです」。
「大きな拍手がもらえて、心がポカポカした」「褒めて褒められて、そして、最高の笑顔で終われた」「本番が成功した嬉しさと、終わってしまった寂しさが混ざっている」など、終了後に寄せられた児童の感想からも学習発表会に取り組むことで得るものがたくさんあったことが分かります。
学習発表会は教員にとって負担が大きく、数年に一度ある行事の見直しの際に取りやめにしようかという話も出るそうです。それでも「やっぱり子ども達の成長のためにやろう!」と今の形で40年以上続いてきました。その教員の熱い思いがあるからこそ、子ども達も真剣に打ち込めるのでしょう。この経験は、子ども達の「根っこ」をより大きく伸ばす大切な一助となっています。
本物にふれる経験が、学習意欲へ良い影響を与える
帝塚山小学校では「学校を飛び出し、体全体で本物とふれあう実体験は、確かなものを見極める目を育て、子ども達の視野を大きく広げる」という考えのもと、遠足や学年合宿に力を入れてきました。特に夏の学年合宿は、子どもだけでなく多くの保護者からも支持を得てきた同校の大切な行事です。
「学年合宿では色々な場所に行きます。まず1年では奈良県・御杖村で川に触れ、2年は三重県の赤目で滝に触れる。3年生では近畿の水がめと言われる琵琶湖にどっぷりと浸る。4・5年生では海に、6年は日本全体を見渡し、自然の宝庫と言われる信州に行く。このように、学年合宿では1~6年生を縦断的に見た時のつながりを大切にしています。また、その場所でしかできない、かつ家族旅行ではなかなかできない活動を設定しています」。
「学年合宿では色々な場所に行きます。まず1年では奈良県・御杖村で川に触れ、2年は三重県の赤目で滝に触れる。3年生では近畿の水がめと言われる琵琶湖にどっぷりと浸る。4・5年生では海に、6年は日本全体を見渡し、自然の宝庫と言われる信州に行く。このように、学年合宿では1~6年生を縦断的に見た時のつながりを大切にしています。また、その場所でしかできない、かつ家族旅行ではなかなかできない活動を設定しています」。
例えば6年生の信州での活動は、以下のように進めているそうです。
「6年の林間学舎で、まず大事にしているのが現地の専門家に話を聞くことです。毎年、植物や生物、地学など、それぞれ異なった専門を持つ現地のネイチャーガイドさんに同行をお願いし、子ども達と一緒にグループごとに自然散策をしてもらっています。子ども達は事前学習で何を調べたいかを決めており、現地で本物を見ながら専門家に質問したり説明を聞いたりすることで、自然への理解がとても深まります」。
自然散策以外にも、本物に触れる体験として林業体験も行うといいます。
「林の再生をうながす事業の一環として、間伐のお手伝いをさせてもらいます。今後、邪魔になるであろう白樺をグループごとに一本、電動のこぎりを使って切り倒すのですが、電動のこぎりを使うことや国立公園の中で木を倒したりする経験は、普通の小学生の生活ではできないことです」。
これらの活動が子ども達に与える影響について、野村校長はこう述べます。
「普段できない活動をし、普段見られない自然の一面に触れる機会は、子ども達の学びにとって非常に大事だと感じています。その機会を得ることで、子ども達は今まで持っていた疑問を解決するだけでなく、さらに深い自然への興味・関心を持つようになっていきます。それが学習意欲にも良い影響を与えます。こういった影響は、受け身で話を聞いただけでは見られません。本当に主体的に取り組んだ時だけ見られるんじゃないかなと思います。これからも本物に触れる体験を大切に、教育を進めていきます」。
「6年の林間学舎で、まず大事にしているのが現地の専門家に話を聞くことです。毎年、植物や生物、地学など、それぞれ異なった専門を持つ現地のネイチャーガイドさんに同行をお願いし、子ども達と一緒にグループごとに自然散策をしてもらっています。子ども達は事前学習で何を調べたいかを決めており、現地で本物を見ながら専門家に質問したり説明を聞いたりすることで、自然への理解がとても深まります」。
自然散策以外にも、本物に触れる体験として林業体験も行うといいます。
「林の再生をうながす事業の一環として、間伐のお手伝いをさせてもらいます。今後、邪魔になるであろう白樺をグループごとに一本、電動のこぎりを使って切り倒すのですが、電動のこぎりを使うことや国立公園の中で木を倒したりする経験は、普通の小学生の生活ではできないことです」。
これらの活動が子ども達に与える影響について、野村校長はこう述べます。
「普段できない活動をし、普段見られない自然の一面に触れる機会は、子ども達の学びにとって非常に大事だと感じています。その機会を得ることで、子ども達は今まで持っていた疑問を解決するだけでなく、さらに深い自然への興味・関心を持つようになっていきます。それが学習意欲にも良い影響を与えます。こういった影響は、受け身で話を聞いただけでは見られません。本当に主体的に取り組んだ時だけ見られるんじゃないかなと思います。これからも本物に触れる体験を大切に、教育を進めていきます」。
子ども達が大好きな国内留学プログラムを6年生にも拡大
創立当時より英語を全学年で教科として位置付け、教育を展開してきた帝塚山小学校。同校の英語教育で大きな成果を上げている行事が、毎年行われる国内留学体験プログラムです。3~5年生を対象とし「英語で学ぶ」をテーマに、子ども達は世界各国から集うネイティブ講師から英語で算数や体育を学びます。このプログラムを、2023年度から6年生でも実施する予定だそうです。
「5年生から『小学校の間にもう1回行きたい』という声がたくさん上がったことと、コーディネーターの先生の『あと1回やったら、英語力が大きく伸びる』という感想もあり、2023年度は思い切って6年生でも実施します」。
なぜ5年生の児童からもう1回行きたいという声が上がったのかを野村校長にうかがったところ、次のように返ってきました。
「このプログラムでは自分から話さないといけない場面がとても多く、その中で『自分の英語が通じた!』という経験を重ねられることが大きいですね。また、最初は通じたことを喜んでいますが、話していく中で『もっとこんな話もしたいのに、うまく話せない』とも感じるようです。それが次への動機付けになっています。特に5年生は3回目で、話すことに慣れてくることに加え、ネイティブ講師から違う国の文化などの話を聞くのもとても楽しく、『もっと話したい!もっと聞きたい!』と。その結果、なぜ6年生ではないの? と思うようです」。
6年生では『英語で学ぶ』から視点を変え、より海外での生活体験を追求した形にしようと今計画中だとか。
「4年生で好評だった英語での買い物体験に着想を得て、6年生ではもっと日常生活に根ざした活動を取り入れようと思っています。電車に乗る場面や買い物の場面など、本当の海外生活を体験できる活動が、最後の仕上げとしては楽しいんじゃないかなと思います」と野村校長は楽しそうに語ります。
「5年生から『小学校の間にもう1回行きたい』という声がたくさん上がったことと、コーディネーターの先生の『あと1回やったら、英語力が大きく伸びる』という感想もあり、2023年度は思い切って6年生でも実施します」。
なぜ5年生の児童からもう1回行きたいという声が上がったのかを野村校長にうかがったところ、次のように返ってきました。
「このプログラムでは自分から話さないといけない場面がとても多く、その中で『自分の英語が通じた!』という経験を重ねられることが大きいですね。また、最初は通じたことを喜んでいますが、話していく中で『もっとこんな話もしたいのに、うまく話せない』とも感じるようです。それが次への動機付けになっています。特に5年生は3回目で、話すことに慣れてくることに加え、ネイティブ講師から違う国の文化などの話を聞くのもとても楽しく、『もっと話したい!もっと聞きたい!』と。その結果、なぜ6年生ではないの? と思うようです」。
6年生では『英語で学ぶ』から視点を変え、より海外での生活体験を追求した形にしようと今計画中だとか。
「4年生で好評だった英語での買い物体験に着想を得て、6年生ではもっと日常生活に根ざした活動を取り入れようと思っています。電車に乗る場面や買い物の場面など、本当の海外生活を体験できる活動が、最後の仕上げとしては楽しいんじゃないかなと思います」と野村校長は楽しそうに語ります。
学習面・学校生活面の両方に良い影響がある完全教科担任制
文部科学省が推進している小学校高学年での教科担任制。帝塚山小学校では以前より5・6年生の準教科担任制を導入していましたが、2023年度からは完全に教科担任制に移行するそうです。
「2クラスの両担任が国語と算数をそれぞれ担当し、それ以外は専科の教員が担当します。これは文科省が進めていることに加え、中学校での学びにスムーズに移行できるようにとの考えからです。それ以外にも完全教科担任制のメリットとして、それぞれの教科を専門の教員から学ぶことで、より深い知識を得られることが上げられます。特に本校の専科教員は中高の教員免許も持っているので、先を見据えた専門的な取り組みができます」。
完全教科担任制は上記のような学習面以外にも、担任の負担が軽減できるというメリットもあると野村校長は指摘します。
「やはり5・6年生になると受験のこともあり、生活面での指導も複雑になってきます。そこで担任が教える授業を精選することで負担を軽減し、子どもの理解や学級経営に集中してもらおうという考えもあります」。
専科教員が増えることで、子どもを見守る目が多くなることもメリットのひとつです。
「卒業した6年生では、担任だけでなく、専科教員や学年担当の教員に相談していた子もいます。特に、高学年になってくると性別を自然と意識してしまうので、例えば女の子だったら、男性の先生にはちょっと相談しにくいことも当然あります。そういった意味で担任だけではなく、いろんな先生がそばにいるということは、子どもの安心にとって大きいのではないでしょうか」。
「2クラスの両担任が国語と算数をそれぞれ担当し、それ以外は専科の教員が担当します。これは文科省が進めていることに加え、中学校での学びにスムーズに移行できるようにとの考えからです。それ以外にも完全教科担任制のメリットとして、それぞれの教科を専門の教員から学ぶことで、より深い知識を得られることが上げられます。特に本校の専科教員は中高の教員免許も持っているので、先を見据えた専門的な取り組みができます」。
完全教科担任制は上記のような学習面以外にも、担任の負担が軽減できるというメリットもあると野村校長は指摘します。
「やはり5・6年生になると受験のこともあり、生活面での指導も複雑になってきます。そこで担任が教える授業を精選することで負担を軽減し、子どもの理解や学級経営に集中してもらおうという考えもあります」。
専科教員が増えることで、子どもを見守る目が多くなることもメリットのひとつです。
「卒業した6年生では、担任だけでなく、専科教員や学年担当の教員に相談していた子もいます。特に、高学年になってくると性別を自然と意識してしまうので、例えば女の子だったら、男性の先生にはちょっと相談しにくいことも当然あります。そういった意味で担任だけではなく、いろんな先生がそばにいるということは、子どもの安心にとって大きいのではないでしょうか」。
5年社会-田植え体験
6年理科-スルメイカの解剖実習
取材を終えて
今回の取材で、夏の学年合宿での活動内容を聞いてみると本当に楽しそうで大人でも夢中になってしまう取り組みばかりでした。その感想を野村校長に伝えると、「子どもは楽しくないと続かないし、そもそも取り組みません。楽しい体験がたくさんあるからこそ、子ども達はより主体的に取り組み、それが学びにつながっていきます」と笑顔を見せます。
このように子ども達に自ら学びたいと思わせる仕掛けが、同校の学校生活全体にちらばっています。このような仕掛けを考えつけるのは、同校で40年近く教鞭を執ってきた野村校長のもと、教員が熱意を持って取り組んでいるからこそ。楽しみながら学ぶ。教育の理想形が、同校では実現しているようです。
このように子ども達に自ら学びたいと思わせる仕掛けが、同校の学校生活全体にちらばっています。このような仕掛けを考えつけるのは、同校で40年近く教鞭を執ってきた野村校長のもと、教員が熱意を持って取り組んでいるからこそ。楽しみながら学ぶ。教育の理想形が、同校では実現しているようです。